第5話

 渡された紙を開いて見ると『体育館裏のごみ捨て場に来て』と書かれていた。

 この時目を疑った。昨日あんなことがあったのにと言う疑問ではなく、何故ごみ捨て場なのかと言う点についてだ。そしてもうひとつ……何故俺が来ると思ったのかと言うことである。


「馬鹿馬鹿しい。」


 そう言って紙を破り捨てた。その後は教室からいつも昼飯を食べている食堂に向かい、彼女の事は忘れようとしていた。

 しかし事はそう上手く運ばず、昼休みが終わっても彼女は教室に帰ってこなかった。それどころか、五間、六間共に彼女は姿を表さなかった。勿論その事に対してクラスの全員が驚いていた。

 何たって彼女はこの学校で一番優秀でサボるなんてするはずもなく、そのせいか教師に至っては学校中を探し回っている人もいた。


「………」


 だが、この事に対して俺は多分、いやきっと彼女の居場所を知っている。そこにいるはずだ。そしてこの時俺はひとつ理解した。彼女が……面倒な女だと言うことを。


「あら?遅かったわね。」


 彼女は案の定紙に書いてあるごみ捨て場の近くにいた。わかりきっていたことだが、振り替える彼女に苛立ちを覚えながら俺は鞄を前につきだした。


「ありがとう」


 彼女が鞄を受けとる瞬間俺は鞄を少し上にあげ取れないようにした。


「ふざけるな。何でこんなことをした?」


 迷惑極まりない、この時を通してわかった。これ以上こいつと関わったら俺や俺の周りの人間関係に影響すると言うことを。

 だからこそ、この時に彼女を突き放さなくてはとそう思った。

 だが……彼女は


「私は離れないわよ?そうやって突き放そうとする限りわね。」


 透かしたように、見透かされ、わかってたかのように俺の考えていたことが……それがとてつもなく恐ろしく感じた。

 自分のなかに入られるのがとても怖くて、恐ろしくてそんな臆病な自分が恥ずかしくて……俺は言わなくていいことまで口から出てしまった。


「何で……何で、お前はそうやって!会ったばっかりの奴にこんなことできるんだ!」


 分からない、理解できないそのときの感情はそれで一杯だった。彼女の行動理念が、理由が、俺には理解が出来ない。


「……会ったばっかりだからよ?会ったばっかりだから、知ったばっかりだから、それを知りたいんじゃない。理解したいんじゃない。」


 だから、それが……俺にとっては


「理解できないんだろ!知りたい?理解したい?誰が、いつ、そんなことを頼んだんだよ!」


「………私がそうしたいと思ったから。」


 結局、自己中心的な自分のことしか考えていない自分勝手な意見だった。

 けれど……いや、だからだろう。彼女のことをもう少し知りたくなった。正直気持ち悪いかもしれない、彼女の事をわかりたいなんて思うことは。

 けれど、この時の俺に……彼女を知ることなんてできるはずなかったのに。

 でも、それでもいいと思った、いいと思えたから俺は……


「……もういい」


 そう言って彼女に鞄を返して振り返り何も言わずに歩き始める。そのためか彼女は驚いたように手をつかんで俺を食い止めようとする。


「待って!」


 けれど俺は手を振りほどいて一度彼女の方を向いて一言だけ伝えた。


「もういい、お前のしたいように好きにしろ。」


 そう言って俺は彼女を認めてしまった。

 この時の顔はどんなだっただろう。笑っていたのだろうか、それともしかめっ面だったのだろうか……きっといつものように無表情で何も興味なさそうな眼をしていたのだろう。

 それでも彼女には伝わったはずだ。だから、彼女は笑いながら鞄を背負い俺のとなりを歩き始めた。

 後日談になるのだが、彼女と歩いていたところを教師陣に見つかり彼女は訳を聞かれ、説教を受けた。

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