第3話
三年の春、クラス発表の際に俺は彼女の隣に立っていた。母校では、クラス発表は必ず校門近くの掲示板に大きな紙が張り出されそれを見て自分のクラスに行く。
しかし、それが悪かった。何故悪かったのかと言うと……。
「ねぇ………なに君だったかしら?」
その時が、俺と彼女が初めて会話した時だった。いや、正格に言えば初めて彼女が人に対して興味を示した日といった方が正しいだろう。
「……ねぇ、聞いているの?」
長い髪を横にかきあげて、少しイライラしたような雰囲気で俺に話しかけていた……のだが。俺がその事に気がついたのは、放課後のことだった。つまり俺はそのまま彼女を無視、いや気づかずに教室に向かってしまった。
そうだ、ここからは少し細かく話していくことにしよう。
俺はそのあと教室に入り自分の席につくとそのままホームルームが始まるまで寝てしまった。だからだろうか、彼女が隣の席だということに一切気づかなかった。
「………君!匙戸君!?起きてください。」
その声と共に目を覚まし周りを見渡すともうホームルームが始まっていて他の生徒達がこちらを見てニヤニヤしていた。正直この時は恥ずかしさと羞恥心が身体中を支配していた。
「まぁいいでしょう。この後は、放課になりますがあまりはめをはずさないように気をつけてくださいね。」
そう言って女性教師は教室を後にした。
教師が出ていった後、他の生徒達は各々教室を出て帰るものや残って話し始める者とで別れ始めた。俺もそれを見ていつの間にか配られていた教科書やプリント類を鞄に積めて席を立とうとした。
その時だった。
「ちょっと待ちなさい。」
そう言って、隣の席の彼女に制服の袖をつかみ椅子に座り直させられた。
「…………」
座り直させられ、そのまま黙っていると彼女は段々と不機嫌そうになり、終いには文句というかほぼ八つ当たりのように暴言をはいてきた。
「何故無視をする?それともそれは無視ではなくて日本語が理解できないということなのかしら?バカなのかしらね?」
この時の感想を言うと……何故全てが疑問系なのかということくらいだった。彼女に興味はあった。しかし、関わり会おうとは一切思っていなかったし関わって俺までいじめに会うのが嫌だった。だから、この時は……
「……俺に構わないでもらえるかな?君もいったよね、話しかけるなって。」
そう言うと少女は黙りこみ下を向いてしまった。
この時言い過ぎてしまったと彼女に少し申し訳ない気持ちが心の隅で芽生えてしまった。
しかし、その気持ちをどうすることも出来ず俺はそのまま立ち去った。
まぁ、このときの対応なんて男子高校生にしてみればこんなもんだと思わないでもないけど……でも思えばこの時もう少し彼女に関わっておけばと今になって後悔している気持ちもある。
ただ、後で聞いた話だがこの事をきっかけに彼女は俺に興味を持ち始めたらしい。だからだろうか、次の日から彼女はやたらと俺に話しかけていた。
「ねぇ、匙戸君?この花の花言葉を知っているかしら?」
「………」
朝、登校して直ぐに彼女は花の辞典に写っている花を指差しながら話しかけてきた。
昨日あんな言い方をしたばかりなのによく話しかけてこれるな、と思いながらも返答を返した。
「ワックスフラワー……だったか?確か花言葉は気まぐれだった気がする。」
そう答えると彼女は少し驚きの表情を見せた。
「何故知ってるの?」
自分から聞いといてその質問をするのはおかしいと思うが……まぁ、驚くことは理解できないでもない。普通なら花言葉なんて知っているはずがないし、そもそも知ろうともしないはずだ。だけど……。
「……叔母が花が好きでよく花言葉を自慢げに語ってたから覚えていただけだよ。」
素っ気なく、そう言って鞄を机の横に引っ掻けて座り中からブックカバーのついた本を取りだし俺はそれに目を通し始めると彼女も察したのか会話を終わらせいつものように辞典を見始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます