完成!

「はあ」


 直己がそう一つため息をついた時だ。


 家のドアが開き、息を荒くしたエレーナが皮袋を手に戻ってくる。


「……はあ、はあ、バター出来たよっ!」


「えぇ……。本当にバターを手作りしてきたの? それもこの短時間で……」


 直己は心底驚いていた。


(もし嘘じゃないんだとしたら、凄い体力とパワーだ……)


「……でも、ちょうどよかった!」


 直己は新たなフライパンを火にかけ、「ここにバターを入れて」とエレーナに頼んだ。


 みるみる内に溶けていくバターが、プツプツと激しく泡を立てる。


 そこへ先程の溶いた卵を、直己は一気に流し込んだ。


 ジュワァッ! 


 ブクブクと、卵がフライパンの中で沸騰して踊る。


(ここからが勝負だ!)


 直己は左手でフライパンを揺らしつつ、木べらの角を使ってフライパンの中に小さな円をクルクルと描いた。


 それを重ねながら、フライパンの形に合わせて大きな円を描く。


 エレーナはその小慣れた手付きに感心し、見入ってしまう。


「凄い……」


 しかし、本当に驚くのはこれからだ。


 半熟でフワフワなスクランブルエッグが出来上がりつつあるのを見計らい、直己は木べらでそれをフライパンの奥へサッと寄せた。


 そしてフライパンを少しだけ手前に傾け、その柄をトントンと叩き、半分ほどオムレツが回転した所で、一気に引っくり返す! 


 クルンッと、見事表裏のひっくり返ったオムレツ。


 目をキラキラ輝かせながら一連の流れを釘付けになって眺めていたエレーナから、「おおっ」と感嘆の声が漏れた。


 直己はなんだか照れ臭くなりながらも、オムレツを皿に盛ったトマトライスの上へと形を崩さないよう慎重に乗せる。


 食欲をそそる赤色をした玄米ごはんのこんもりとした山に盛り付けられた、つるんと金色に輝く楕円形のオムレツ。


 直己はそれをテーブルに運び、椅子を引くとエレーナを座らせた。


「どうぞ」


「ありがとう! お姫様になったみたい!」


「あ……そう」


(照れるようなことを言うなぁ……)


 そんな直己をよそに椅子へと座ってからも、ずっとうっとりとした目でオムライスを見つめていたエレーナが呟く。


「こんなに綺麗なオムレツ初めてだよ……」


「これはオムライスって言うんだ」


「へえ、オムレツにごはんだからオムライスかぁ……。なんだか、食べるのがもったいないくらい綺麗だよ!」


「ふふっ、出来れば残さず食べて欲しいな」


「うん。……本当においしそう」


 その直後、「グー」とエレーナのお腹が鳴った。


 彼女は頬を赤らめつつも直己に訊く。


「食べて……いい?」


「あ、ちょっと待って……」


 直己は包丁で、オムレツにすーっと切れ目を入れた。

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