フクロウ見にくる?

アンドウ イリエ

『フクロウ見にくる?』

高田が開く合コンは、いつも素晴らしい。


どういうツテなのか、可愛い女の子ばかりが来る。


高田が俺達の大学名をかなり盛ってるのを差し引いても、なかなかの手腕だと思う。



「だけど嘘ついて知り合って、付き合うことになったらどうすんだよ?」


最初、坂本はそう言って反対した。


「バカか、お前」


高田はあきれ果てたといった口調だ。


「合コンなんかに来るようなオンナと真面目に付き合うわけないだろ」



よく言うよ。



高田の彼女は合コンで知り合った女子大生だ。



大学名を伏せてるのは、あるいは身バレを恐れてるのかもしれない。



彼女は相当なヤキモチ焼きらしいから。



坂本は納得したような、しないような顔だったけど、いつも参加している。



「今日はナースなんだって?」



今夜もかなり乗り気だ。


「らしいよ。しかも全員新人のナース」


「いいね~」



坂本とオレはハイタッチをしながら、店に入っていった。



女子の好みそうなビストロだ。



案内されて奥の個室に向かうと、女の子が1人でスマホをいじっていた。



黒髪の大人しそうな雰囲気。



彼女が顔を上げた瞬間、坂本がこちらを見てニヤニヤした。



白い肌。切れ長な目。



すっげぇ、オレのタイプ。



もうドンピシャ過ぎるくらい。



今夜はラッキーかもしれない。



「あの…」


女の子はスマホを見ながら、唇を開く。



「さっき患者さんの急変があって、他の子たち来れなくなったんです」



「えっ…」



「お店に悪いから、私だけでも…来たんですけど」



坂本は心得たように端の席に座る。



オレは女の子の目の前の席に座った。



「ほんと、すみません」



「残念だけど、患者さんの容態の方が大事ですから」



ここで出来るだけ感じ良く笑うのがコツだ。



「上田タモツって言います。趣味はフットサル。1人暮らしだけどフクロウを飼ってるから2人暮らしかな」



嘘だ。


アパートの前の住民がフクロウを飼ってたらしく、ケージが放ってかれたままなだけだ。



フクロウと言えば、たいていの女子が食いつく。



アパートに誘いやすい。



連れ込めれば、「フクロウが逃げてしまった」と慌てるふりをすれば良いのだ。



ケージがあるのに、まさか嘘をついているとは思わない。



どうせ女の子だって、初対面の男の部屋に行く言い訳を探してるのだ。



”フクロウ”はお互いのために必要なもの。



「フクロウ?」



女の子が目を見開く。マジで可愛い。


「そう」



「見てみたいな」



「いいよ。この後、うち寄ってフクロウ見てく?」


「どうしようかな」



いきなり?


こんなに上手くいって良いのだろうか。



ちなみにオレは頭は悪いが顔は良い。



「ところで」


女の子は急に低い声になった。


「フクロウは本当にいるんでしょうね?」


「ええっ?」


女の子は少し身を乗り出す。


「覚えてないの?半年前に看護学生と合コンしたでしょ?」



思い出した。



ちょうど、この子みたいなオレの好みの切れ長な目の…



「フクロウ見せてくれるって言うから、ついてったらいなくて」


はい。



「おたく、私にキスしようとしたよね?」



「ごめん、君が超かわいかったから…


悪かったよ。それに結局未遂だったよね?」



「ふーん」


女の子は脚を組みかえた。



「私はキスされそうになったショックでPTSDになりかけなんだよね!」



マジかよ。いや、そんなわけないだろ。



あの時、女の子が怒って…

そばにあったペットボトルで殴られたんだった。



オレはちょっとした軽傷をおったはずだ。



「男の人が怖くなったらどうしてくれるの?」


はい、すみません。


「私は実家で飼ってるくらい、本当にフクロウが好きなの。


寮にいるから会えないの。


今日行ったら、確かに見せてくれるんでしょうね?」



オレって、なんでフクロウ飼ってないんだろう。









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