第12話


「矢野!!」



 階段を駆け下りてきたのだろう奥野が、校舎から走り出てくる。



「今度はあんた、何コカしたんだよ?」



 笑ってやった俺を、走ってきた勢いのままで抱き締める。





「まだ、日付変わってないよな?」


 息を切らせながら耳元で言う声に、「あ? どうだろ?」と腕時計を見ようとした。




 ――のに。




 両頬を手で挟まれて、動けなくなる。






 次の瞬間には、キスされた。





「……ちょッ……、まっ……」





 これって、ディープ……――。








「……はッ、……ん……っ……」





 溢れた唾液が零れて、顎を伝う。


 拭おうとする俺の手を掴んで、それすらも許さず、奥野はキスし続けた。







「――お前ね。教師としての僕と、お前の言葉の両方を叶えようと思ったら、卒業式終わってからの『今日』しかないって気付いてたか?」




 長いキスが終わった途端、もう1度抱き締められて。


 いきなりグチられた。




「お陰で全然、絵が手につかなくて完成しないったら……」




「ちょっと待て。ギリギリにしか完成しないのは、いつもの事だろ」


 呆れた声で返す。





「――けど。返事は受け取ったよ」





 あいつの長い指が触れるのと、頬や耳にキスしてくれるのを感じ受けながら、背を抱き締め返して夜空を見上げた。




「月が綺麗ですね」


「いやそこは。せめて夜空見上げながら言えよ」




 俺を抱き締めながら笑っている、あいつを感じる。




「ちくしょう……」



 これからもこんなふうに、くやしいけど俺は、こいつに夢中であり続けるのだろう。





 闇に浮かぶ灯りが、イヤんなるほど本当に――。




「月が……」




 それ以上は、声には出せなかった。







   我、君ヲ愛ス……――。






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