第11話


 石を拾って、窓に当てて割らぬよう気をつけて投げる。


 窓の下の壁に当たった石に、部屋の窓が開いてあいつが顔を覗かせた。




「……矢野?」




 驚いた顔で見下ろす奥野を、微笑んで見上げる。




 ――なぁ上田。俺は、これを区切りとするよ。




「先生、今まで――……」


 ありがとうな、とそう言おうとしたのに。


「矢野、そこ動くなよ!」


 大きく言って、顔が引っ込む。


 その直後、ガタガターンッ! と派手な音がした。




「――おいおい。油絵ひっくり返してねぇだろうな……」




 ありえそうで怖ぇ、と呟いた俺は、「そういや」と思い出す。


 1度、「カッターで紙を切っている時によそ見してて」と指に包帯をグルグル巻きにされて、あいつが病院から帰って来た事があった。


「ホント、どうしようもねぇ程ガサツ……」


 何度も呆れたその様子が、今は笑える。




 笑っていたかった。



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