第7話


「月なんか、出てねぇよ」


 絞り出した自分の声が、ひどく震えている事に、涙が出そうになる。




「言葉なんて、要らねぇ」




 震えを止めるように何度も唾を飲み込んで、声を出した。




「もし、違うってんなら。もし――違う答えがあるってんなら。俺が『卒業』するまでに、あんたから俺にキスしろ。俺が、此処の生徒じゃなくなるまでに。――あんたから。……もう、あんたに呼ばれない限り、俺からこの部屋に来ることはしねぇよ」




 最後に焼き付けるように奥野を見つめてから、背を向ける。


 鍵を開けて、ドアを閉めてから、駆け出した。






 部屋から充分離れた場所で、壁に握った拳をあてる。


「もう……何なんだよ……」


 ズルリとしゃがみ込んで。冷たい壁に肩を預けるようにして。


「判ってた、ことじゃねぇか……」





 バカだ、俺――と。


 誰も居ない廊下で独り、身を震わせた。





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