第5話


 その後の1週間は、先輩に会いたくなくて、屋上に行くのを俺が避けた。


 次の週には、先輩に謝りたくて……。


 そんなことを言い訳にしながら、やっぱり会いたくて。


 俺は毎日屋上に上がった。


 けれど先輩は、居なくて。


 電話の番号も知らないから、連絡も出来なくて。


 無視されたり、拒絶されるのが怖くて。3年の教室まで行くことも、出来なかった。






 3月1日。


 3年の先輩達の卒業式。


 俺はマヌケにも、最後に先輩が来てくれるんじゃないかと屋上に上がった。




 先輩が来てくれることはなかったけれど。


 屋上から、帰って行く先輩を見ることが出来た。


「あ……あの人……」


 和美さんだ、と先輩の隣に居る女の人を見る。


 何やら先輩が言ったことに反応して、卒業証書の入っている黒い筒を振り上げていた。


「先輩…………笑ってら……」


 和美さんの卒業証書の筒を腕で受けながら、先輩は笑っていた。


「……あーあ。相変わらずの、バカヅラ」


 遠くても、判る。


 ふふんッと俺が笑ったと同時、先輩が振り返った。


 見えてる筈もないのに、しゃがみ込んで隠れた。


「ふっ……ふふっ…………っ……」


 フェンスを掴んで、肩を震わす。


 友人達と、和美さんと。


 校門の向こうに姿を消す先輩を、陰から見送った。




「……先輩……卒業……おめでとぅ……ス……。ほんと。……おめでと……ッス……。……先、輩………。里見、先輩……………」






 俺。


 里見先輩のことが、好きでした――。




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