第4話


「で? どうだったよ? 渡せたのか? 好きなヤツにチョコレート」


「…………フラれたッス。もうグロッキーってくらい……」




 笑って言ったのに。


 冗談にまぎれさせた、筈なのに。




 一瞬顔をしかめた先輩が、俺の頭を引き寄せた。


「……なぁ。俺じゃ……ダメか? 俺じゃお前を、なぐさめてやれねぇか?」


 先輩の肩に顔をうずめた状態で、このまま甘えてしまおうか、なんて弱い俺が思ってしまう。




 けれど――。




 ドンッ! と、先輩の体を押した。


「おま――」


 何すん……と目を剥いた先輩が、泣いてる俺の顔を見て固まる。


「女に恥かかせないって意味、あんたちゃんと判ってんスか。……なぐさめるって、どういう意味で言ってるつもりなんスか」


「お前…………和美の、見てたのか?」


 驚いたように言葉を落とした先輩が、『和美』と言ったことに、よけいに涙が溢れた。


 1度、拳を握ってから、ポケットからチョコの包みを取り出す。


「いらないなら、捨ててほしいッス」


 先輩の胸元に、押し付けた。


 反射的にチョコを落とさぬよう手を遣った先輩の指先が、俺の手に触れて。


 なごり惜しそうに手を震わせた俺は、俯いて、やっとの思いで手を引き剥がした。


 先輩の顔も見れずに、駆け出す。






 ――そしてこれが、卒業してしまう先輩と話した、最後になった。






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