第3話


 手ぶらで教室に戻った俺に、友人達は「パン売り切れてたのか?」とおかずをくれようとしたけれど、「いらね」と断った。


「それより眠ィから寝るわ」


 そう言って、机に突っ伏して残りの昼休みを過ごした。


 午後の授業も、ただ、窓の外を眺めて受けた。






 放課後になってようやく、俺は屋上へと上がった。


 ――ここって、こんなに寒かったっけ?


 フェンスに背を預けて座り、膝に顔を埋める。


「…………今日だけだ……」


 今日が終わったら、俺はちゃんと、いつも通りになれるから。


 明日からはちゃんと、先輩ともいつも通りに話すから。


 だから。




 だから、今日だけ――。




「お。放課後に居るなんてメズラシーじゃん」


 バッと顔を上げる。


 カバンを小脇に挟んだ先輩が、俺を見て笑っていた。


「――先輩こそ。めずらしいッスね。普段は放課後に来たことないのに……」


「まぁなー」


 ノンビリ答えた先輩は、当然のように俺の隣に座る。


「いやー。お前今日1回も来なかったからさー、ちょっと心配んなって」


「心配?」


「そ。今日バレンタインじゃん」


「あぁ……」


 なおざりに答えた俺に、先輩が顔を覗き込んできていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る