第8話


 檜山が聞いたらガッカリするのか、「それでも構わない」と言うのか――。




 俺は彼が言った台詞の通り、檜山の為だけに、英語も高校受験も頑張った。





 高校に合格した時も、親よりもまず「檜山に伝えなきゃ」と思った。心から喜んでくれるだろうその顔を想像しながら、浮かれた歩調で中学に向かった。


「よく頑張った」


 何人も伝えに来たクラスの生徒の1人。




 頭を撫でたりも、肩や腕を叩いたりもしてくれない。


 それでも彼の笑顔が嬉しくて、俺は満足していた。




「先生のおかげ」


 俺の言葉に、檜山が笑みを深くする。


「私も、菅田のおかげだ。私の言葉を証明してくれた」


「『私のために』ってヤツ?」


 檜山は一瞬目を見開いてから、クスクスと笑った。


「そっちじゃなくて。『やればできるのに』の方」


「高校行って、先生が居なくなったら判らないよ。元の『できない俺』に戻る」




 そうさ。


 戻ってしまう。きっと――……。




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