第5話


 檜山が用意したのは、中学1年の奴が宿題としてやるプリント。


 彼等が次の授業までにしていくそれを、毎日やってこいと言うのだ。




 B5サイズのプリント1枚。




 答えさえ解れば、5分とかからずに出来るものだ。


『I am ~ 』


 程度から始まるその『宿題』は、他の3年の奴なら「冗談だろ?」と笑ってしまう内容だろう。




「こんなんで間に合うの?」


 訊けば、「それは君次第」と檜山は笑った。


 強制の宿題ではない。やっていかなくても檜山は何も言わなかったし、俺を怒ったり注意してきたりする事はなかった。


 だけどやっていけば、檜山は放課後、他のクラスメイトが帰って居なくなった教室で、それを採点してくれる。間違えた処は、説明しながら俺が正しい答えを出すまで教えてくれた。


 そして全ての答えを一発で正解していれば、俺を褒める。


 それも凄く嬉しそうに微笑みながら褒めるから、俺は一生懸命間違わないよう、毎日真面目に『宿題』をしていくハメになった。






「檜山と由利先生、今朝ケンカしてたぜ」


「学校着く前に由利先生、檜山の車降りてたんだけど、バァーンッ! って車のドア閉めててさー。メッチャ、顔怖ぇぇーの」


「『おはようございます』って声かけられないくらいだったよねー」




 そんな話を最初に、檜山達の不仲説は何度も生徒達の話題となった。




 ――ほらな。1年経ってないのに、こんなモンさ。




 結婚なんてロクなモンじゃないと、俺は心の中で呟く。何がそんなに面白いのか、興味津々に笑いながら話す友人達の会話に、ただ耳を傾けていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る