第27話家族とのイベント

一階に下りると、やよいの母親が声をかけてきた。

「もうお帰り? せっかくだから、お茶でも飲んでいって」

「いえ、おれはもう帰ります」

「そんなこと言わないで。お礼もしたいから」

謙虚に言っているが、母親からは有無を言わせないという威圧感が溢れていた。

それを肌で感じ取ったケイトは、素直に頷くことにした。


「……じゃあ、お言葉に甘えていただきます」

ケイトが通された部屋は、畳が敷かれた応接間だった。座布団の上に正座したケイトの前には、お茶と和菓子が出された。

向かい側には、テーブルを挟んで母親が腰掛けた。


「本当にありがとうね、ケイト君。ここまであの子を背負ってくるの、大変だったでしょ?」

「いえ、そんなことはないです。やよいさんが倒れてしまった責任は、おれにありますし」

「でもあの子、いい顔してたわよ。いつもの具合悪い時の顔じゃなかったもの。あなたのおかげなんでしょ? あの子を楽しませてくれたのは」

「それは……」

ケイトは事の顛末を全て母親に伝えた。

母親はそれを聞き、嬉しそうに微笑んだ。


「本当にありがとう。あなたが手を引いてくれなければ、あの子はずっと塞ぎ込んでいたままだったわ。あの子、あの通り身体が弱いから、外に出ることすら怖がっていたの。学校に行っても貧血起こして保健室で休むことも多かったらしくて、体育の授業なんてずっと見学してたって言ってたわ。家でも熱を出すことが多かったから、私の身体なんて一生このままなんだって悲観的になって」

母親は辛そうにかぶりを振った。


「でも、最近になって、急にあの子が頑張りだしたの。学校ですごい男の子を見て、私もあの男の子のようになりたいって。その男の子って、あなたなんでしょ?」

「えっと……たぶん、そうです」

確かにやよいはケイトに憧れを抱いているような発言をしていた。

まさかそれが、そこまでの影響力を与えているとは思わなかった。


「もし迷惑でなかったら、これからもどんどんあの子の手を引っ張ってくれないかしら? あなたと一緒なら、きっとあの子ももっと頑張れると思うから」

「おれにそこまでの事が出来るかは分かりませんが……ほどほどにやってみます」



母親に見送られ、ケイトは帰路へとついた。その道すがら、ケイトは空を見上げて大きく息を吐いた。

「これでいいのか? なんか、本格的にやよいの攻略ルートに進んでるような気がするけど、こんなやり方で中原清二って人を助けることが出来るのか?」

若林からの呼び出しはない。おそらく、このまま続行しろということなのだろう。

「どうなっても責任は取らないからな」

ケイトはモニター越しの若林に話しかけるように、独りごちた。

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