第18話三回目のパジャマイベント
学校を出てからは、何事もなく家に着いた。放課後のイベントは香澄と夏樹だけですんだようだった。
時間は夜になっていた。ケイトはパジャマに着替え、自分の部屋にいた。この日の最後にミクとのなんらかのイベントがあるのだろう。
「……一緒に住んでるからって、別に毎日ミクとのイベントを出さなくてもいいと思うんだけどな」
ケイトのため息混じりの呟きは、部屋をノックする音で打ち砕かれた。
「お兄ちゃん、入るね」
ケイトの返事も聞かず、ミクは部屋に入ってきた。ノックさえすれば、相手の意思に関係なく入り込んでいいと思ってるのだろう。
「……なんの用だ?」
文句を言っても無駄だと悟り、ケイトは面倒くさそうに応対した。
「お兄ちゃんにお願いがあるんだけど、宿題教えて」
ミクは教科書とノートを差し出してきた。
察するに、可愛い妹に頼りにされる格好いい兄を堪能するためのイベントなのだろう。
プレイヤーの頭脳に関係なく問題の答えが頭に浮かぶようになっているのだろうが、そんな演出に乗る気はなかった。
「悪いけど、おれは頭が悪くてね。お前の宿題を見る事は出来ないよ」
「そんな意地悪言わないで。中学生の問題なんだからお兄ちゃんなら大丈夫だよ」
「案外、高校生が中学生の問題を解けないっていうのはありがちな話だぞ」
実際本当に頭がいい方ではないケイトも、現実世界ではそうだった。
「まずは問題を見てから言ってよ。お兄ちゃんなら分かると思うから」
ミクは教科書を開いてケイトに見せてきた。数学の問題だった。
「うっ……」
ケイトは問題に目を落とし、硬直した。本当に答えが分からなかったのだ。
考えなくても勝手に答えが浮かび上がると思っていたのに、予想外だった。
「どう、お兄ちゃん。分かった?」
ミクは期待に満ちた眼差しで尋ねてくる。
ケイトは情けなく感じ、演技ではなく普通に恥ずかしそうに答えた。
「悪い。本当に無理だ。全く分からない」
「えー、お兄ちゃんでも分からないの? 高校生なのに」
ミクは不満げだった。
「悪かったな」
馬鹿にされたようで、ケイトは不機嫌気味にぼやいた。
「ううん、自分で解けないあたしも悪いから。あたし、もう少し自分で頑張ってみるね。お兄ちゃんも、中学生の問題が解けるぐらいには勉強しないと駄目だよ」
「余計なお世話だ」
「じゃあね」
ミクは必要以上にケイトに絡むことなく、あっさりと部屋を出て行った。
いつもなら長くなる面倒ごとが簡単に終わって良かったのだが、ケイトはしっくりしないのを感じていた。
「……なんでゲームのキャラごときに馬鹿にされなきゃならないんだ。こんな演出いらないだろ!」
好感度が上がらなかったとはいえ、少し傷ついたケイトだった。
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