第17話元不良少女とスポ根少女
放課後、ケイトは足早に教室を飛び出した。
沙羅から一緒に帰ろうと誘われたが、無視する事が出来た。誰かと接触しない事を祈りながら、外を目指して行く。
「神山センパ〜イ!」
背後から、走ってくる足音と呼び声が聞こえてきた。
ケイトは冷静に振り返り、目標物を確認した。
「神山センパイ!」
そばまできた香澄はそのままの勢いで、ケイトの胸に飛び込んだ。
その動きをしっかりと見ていたケイトは、あっさりとかわした。
ベチャッ!
香澄は廊下に落下した。
「予想通りだったな」
香澄の行動パターンはすでに学習済みだった。
ケイトは倒れている香澄を無視し、再び歩き出した。
「待てよ」
ふとケイトは引き返し、香澄の背中を踏みつけた。
「むぎゅっ!」
香澄から妙な呻き声が漏れる。ケイトは何事もなかったように歩き出した。
「ちょっと待った〜!」
香澄は起きあがると、恨みがましくケイトを睨みつけた。
「なんだ香澄じゃないか。何か用か?」
ケイトは今存在に気付いたかのように、しらじらしく尋ねた。
「何か用じゃないよ! 神山センパイ、今スミスミの事踏んだ!」
「踏んだ? そういえば、さっき何か大きな物踏んだな。悪いな、気付かなかった」
「嘘だ! 一度スミスミの事確認して、わざわざ戻ってきてから踏んだ!」
「そんなことしたかなぁ」
ケイトは挑発的にとぼけてみせる。香澄の顔が怒りに歪んでいく。
「それに神山センパイ、またスミスミの事よけた! すごく痛かったんだから〜!」
「そういえば、さっき何かが勢いよく飛び込んできてたな。思わずよけたけどお前だったのか。気付かなくて悪いな」
「嘘だっ! 絶対スミスミと目が合ったもん! だから飛び込んだのに!」
「廊下にか?」
「神山センパイにだよ!」
「じゃあ帰るか」
「って無視しないで!」
去ろうとするケイトの腕を香澄はすかさず捕まえる。
ケイトは面倒くさそうに振り向いた。
「何だよ。まだ何か用なのか?」
「まだって、スミスミ用件言ってないよ! 神山センパイ、これからスミスミとデートするの」
「何で?」
「スミスミがしたいからっ!」
「おれはしたくないけど」
「するったらするの! デート、デート!」
香澄はだだっ子のように手足をばたばたさせる。怒りで我を忘れているのか、いつものぶりっこらしさは全く見えなかった。
「さっきさんざんおれに食ってかかってたのに、よくデートの誘いが出来るな。大体、そんな状態でデートしても楽しくないだろ」
「えっ? あ、その……」
ケイトの言葉に、ようやく香澄は正気に戻った。取り繕うように、笑みを浮かべる。
「スミスミ、別に怒ってなんかないよ。神山センパイになら、何をされても平気だもん」
「じゃあまた殴られてみるか?」
ここまでは昨日とほぼ同じ展開だった。昨日は最後に甘くなってしまったが、今回は同じミスをしないようにと気を引き締める。
「何をされても平気?」
声は別の所からかかった。
「すっごーい! 大胆発言だね!」
声の主を見て、ケイトは嘆息した。
「なんでここでお前が出てくるんだ」
「何その言い方。ボクはここの生徒なんだから、学校内のどこにいたっておかしくないでしょ」
夏樹は頬を膨らませた。
「いや、おれが言いたいのはそう言う事じゃなくて……」
香澄との単独イベントではなく、他のキャラが加わってきた事が予想外だった。
ましてや他のキャラならともかく、夏樹は放課後時はテニスコートに行かなければ会わないと思っていたのだ。
「それより、キミの彼女大胆だね。ケイト君、モテモテなんだ」
夏樹は恋愛話に興味を向ける。以前のラブレターの時もそうだったが、夏樹はこの手の話が好きのようだ。
「誰が彼女だって? あいつは……」
「もう、そんなに誉めないでよ! スミスミ、照れちゃう!」
どさくさにまぎれ香澄はケイトの腕に抱きつき、はにかんでみせる。本当のカップルである事をアピールしてるかのようだ。
ケイトは無言で香澄の頭に拳を落とした。
ゴンッ!
「うみゅう〜、痛い……」
香澄は頭を抑えてうずくまった。
「ケイト君……いきなりすごい事するね」
夏樹は後ずさりながらア然としていた。
「こいつにはこれぐらいするのが丁度いいんだよ」
それは香澄の場合、並の事では好感度が下がらないと踏んでの事だった。
「でも、女の子に暴力振るのはよくないよ。ケイト君、男の子なんだから」
「この前不良少女を殴った時には、そんな事言わなかったんじゃないか?」
「それは相手が悪いからだよ。このコは別に悪い事してないじゃない」
夏樹は香澄を弁護しようとする。香澄の正体に気付いてないようだった。
「ま、無理もないか」
ケイト自身も最初は気付かなかったように、他のキャラが気付かなくても当然の事だろう。
ケイトは嘆息した。
「あんたは不良が嫌いだったよな?」
「なに、突然? そりゃあ、不良は嫌いだよ」
ふいに出された質問に、夏樹は途惑い気味になる。
「こいつがその二日前におれが殴り倒した不良少女だよ」
「えっ……?」
ケイトの言葉に、夏樹は目を見開いた。信じられないといった風に、香澄を凝視する。
「うう……スミスミ不良じゃないよ。スミスミは普通の恋する女の子だもん」
ダメージから回復しつつある香澄は、ふらふらと立ち上がりながら不満げに呟いた。
「……お前に普通という言葉を使って欲しくないな」
香澄のぶりっこキャラは、どう見ても普通ではなかった。
「……ケイト君、このコ本当にあの時の不良なの?」
夏樹はまだ疑心と驚愕が入り交じった眼差しで香澄を見ている。以前と今の香澄のギャップが、どうしても信じられないのだろう。
「残念だが、それが真実だよ」
どうせ不良から更生するなら、もう少しまともな方向に進んでもらいたいものだった。
「そっか。そうなんだ。すごい、すごいよ!」
突然夏樹は顔を輝かせると、香澄の両手をがしっと掴んだ。
「え? あの……」
香澄は思わぬ夏樹の行動に途惑っていた。香澄のキャラを持ってしても、予期せぬ事には対応出来ないようだった。
構わず夏樹はまくしたてた。
「戦って負けた事で相手を好きになり、その相手に振り向いてもらうためにそこまで自分を変えるなんて、そうそう出来る事じゃないよ! これが恋する女の子の力なんだね! ボク、感動しちゃったよ!」
「えっ、そうかな? スミスミ、そんなにたいした事してないよ」
夏樹に誉められ、香澄は照れくさそうに笑った。
「そんな事ないよ! キミ、すごく見違えちゃったもん! キミがあのぼさぼさ頭で制服もまともに着こなせないダサダサの不良だったなんて、とても信じられないよ」
「うみゅう、そんなに誉めないで。スミスミ、恥ずかしいよ」
さりげなくひどい事を言われたような気がしたが、香澄は気付いていないようだった。
「それで実際彼とはどんな感じなの? もうラブラブって感じ?」
「うん! スミスミと神山センパイは、相思相愛の仲なんだよ」
「ちょっと待て!」
勝手な発言に、たまらずケイトは口を挟んだ。
「おれはお前のような奴は嫌いだと、はっきり言ったはずだぞ」
「もう、神山センパイったら照れ屋さんなんだから。昨日はあんなにきつく抱きしめてくれたのに」
「うっ……」
理由はどうあれ事実を言われ、ケイトは口ごもった。
「えーっ! そんな事したの!? ケイト君、大胆!」
「そうなんだよ。スミスミがちょっと目をつぶっていたら、突然ぎゅって抱きしめてきて。スミスミ、ビックリしちゃったもん」
「誤解を招くような言い方するな!」
「ケイト君、やるぅ〜」
「言ったそばから勘違いするな!」
夏樹は完全に変な方向に解釈しているようだった。
「でもスミスミ嬉しかったから、そのまま神山センパイを抱き返しちゃった。きゃは」
「そのあとすぐに突き放してやっただろ!」
「ケイト君、土壇場で恥ずかしくなったんだね。ウブなんだから」
「違うだろ!」
夏樹にはケイトの言葉の意味が届いていないようだった。
「スミスミ、いいんだよ。神山センパイがスミスミの事欲しくなったら、いつでもあげるから」
「妙な発言するな!」
「神山センパイ、だーい好き!」
香澄はケイトに抱きつき、さらには顔を上げ、キスをしようとする。
「いい加減にしろっ!」
ケイトはさっきよりも強く香澄の頭に拳を落とした。顔が上向きになっていたため、その拳は額に命中した。
「うみゅう〜」
香澄は再びうずくまった。
「……ケイト君、激しいね」
さっきよりも痛そうにしている香澄に、夏樹は同情の目を向けていた。
「ここまでしてもこいつは懲りないからな」
ケイトはうんざりしたように呟いた。
「とりあえず、こいつが復活する前におれはもう行くぞ。こいつの事がかわいそうだと思うなら、あんたが介抱してやるんだな」
「え、ちょっと!?」
夏樹は非難気味にケイトを呼び止めようとするが、ケイトは無視して帰路についた。
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