第15話パジャマイベント再び

時間が跳び、ケイトは自宅の自室にいた。夕方のイベントは、香澄とのデートのみで終わったようだった。

時間は夜の十時。ケイトはパジャマを着ており、ベッドに仰向けになっていた。夕飯等の家に帰ってからのイベントは、省略されていた。


「お兄ちゃん、入るよ」

ドアがノックされ、ミクが部屋に入ってきた。ミクもまたパジャマを着ていた。

「……入っていいなんて言ってないぞ」

とりあえず身を起こし、ケイトは冷たく返した。これが今日最後のイベントになるのだろう。


「まあまあ、そんな固い事言わないで。それよりお兄ちゃん、トランプしよ」

ミクは言いながら持参したトランプを配りだした。ケイトの返答には関係なく、すでにやる気のようだった。


「あいにく今はそんな気分じゃない。やるなら一人でやりな」

「一人でなんて無理だよ。ねえ、いいでしょ? お願い」

猫なで声を上げ、ミクは甘えるように言う。

妹好きにとっては、トランプのような些細な遊びであっても、一緒に遊ぶ時間が幸せなのだろう。たいした演出である。


「なんと言われようとおれはそんな物やる気はない。おれはもう寝るからお前は部屋に戻れ」

「えー、そんな事言わないでよ。ねえ、一回だけでもいいから。遊ぼうよ」

「やだって言ってるだろ。しつこいぞ」

「ぶー、お兄ちゃんの意地悪。遊んでくれないと、こうしちゃうんだから。えいっ」

ミクはベッドに腰掛けているケイトにダイブすると、全体重をかけてケイトを押し倒した。


「うぷっ……何するんだ!」

ケイトはミクを押しのけようとするが、がっちりとしがみつかれ離れなかった。

それでなくてもミクの柔らかい身体の感触、ぬくもりがリアルに伝わり、ケイトにそこそこ心地よい気分を与えていた。

そのためその快感から離れたくない欲求が働き、ミクを押しのける力に本気を出せずにいた。


「えへへ、お兄ちゃんを押し倒しちゃった。遊んでくれないと、もっとすごい事しちゃうんだから」

「……もっとすごい事?」

「して欲しい?」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、ミクは誘惑する。

ケイトは思わず変な想像をしてしまい、返事をするのが遅れてしまった。



「えいっ」

その隙をつき、ミクは突然ケイトをくすぐりだした。

「それ、こちょこちょこちょ!」

ミクは首筋や脇腹などを狙い、細かく指先を動かしてくる。それはものの見事にケイトのツボを捉え、笑わずにはいられなかった。


「うはっ、うははははははっ! ば、馬鹿っ、やめろっ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

上からのしかかられ、くすぐられてるせいもあってケイトに力が完全に入らなかった。じたばたとのたうち回り、いいように弄ばれていた。


「それそれ、もっともっと!」

ミクも面白がってさらに激しくケイトをくすぐってくる。ケイトは本気で窒息しそうだった。


「やっ……ははは……やめろっ……うははははっ……しっ……死ぬって……あははははっ!」

「まだまだ、どんどん行くよ!」

「あははははっ、い……いい加減に……しろっ!」

ケイトはミクの両腕を掴み、動きを止めたところで渾身の力でミクを跳ねとばした。ミクの安全などお構いなしである。


案の定ベッドから吹っ飛ばされた形になったミクは、どしんと床に尻もちをついた。かなり痛そうだった。

くすぐり地獄から解放されたケイトは、ぜえはあと激しく息を乱していた。


「ったく。人がおとなしくしてればいい気になりやがって。死ぬかと思ったぞ」

ケイトはミクを非難するが、ミクは聞いてないかのように顔をしかめてお尻をさすっていた。


「うう……お兄ちゃんひどいよ。もう少し優しくしてくれてもいいでしょ」

「自業自得だ。こっちは窒息死するところだったんだ。その程度の痛みで文句言われる筋合いはない」

下手すればそれでゲームオーバーになっていたかもしれない。このゲームなら十分考えられる事だった。


「でもお兄ちゃん」

急にミクは表情を変え、含み笑いを浮かべた。

「さっきあたしがもっとすごい事するって言った時、変な事期待してたでしょ?」

「なっ!?」

図星を指され、思わず赤面してしまう。


「やー、お兄ちゃんのエッチ」

「ば、馬鹿な事言うな! 誰がお前なんかに……」

「へー、そうかなぁ?」

ミクは再びケイトに飛びつこうとする。おそらくケイトの胸の音を聞こうとしているのだろう。こういうシチュエーションは二度目だった。


ケイトはとっさに学習能力を働かせると、素早くその場から離れた。同時にミクがダイブしてくる。ケイトがいなくなった事で、ミクはベッド上に顔から落下した。


「むぎゅう」

ミクはベッドに顔を埋め、妙な声を上げた。スプリングが効いてるとはいえ、少しはダメージがあったようだった。

とはいえ、固い地面に顔面から落ちた香澄に比べれば、遥かにマシであろう。


「ふう、危ない危ない」

ケイトは見事にタックルをかわし、安堵の息をついた。

「危ない、じゃないよ!」

むくりと起きあがったミクは、非難がましく睨んでくる。


「ひどいよお兄ちゃん。何もよけなくてもいいじゃない!」

「お前がいきなり襲いかかってくるからだろ」

「襲ったんじゃなくて抱きつこうとしたんだよ!」

「それを襲いかかるって言うんだ!」

他の男は喜んでも、ケイトにとっては願い下げだった。


「失礼だよお兄ちゃん! あたし、変質者じゃないもん!」

「やってる事は一緒だろ。嫌がる相手に無理矢理抱きつこうとするんだから」

「お兄ちゃんはそんなにあたしに抱きつかれるのが嫌なの!?」

「何を今さら。当然の事だろ」

ケイトはあきれたように呟いた。


「うー、お兄ちゃんの意地悪! 馬鹿っ! もう知らない!」

ミクはバタンとドアを閉め勢いよく部屋を出て行った。廊下をドスドスと歩く音までリアルに聞こえてくる。

騒がしいのがいなくなり、一気に部屋は静まりかえった。

「ま、こんなところかな」

好感度を下げられたと判断すると、ケイトは満足げに眠りについた。

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