超常現象推理部活動記録

S●NY

フクロウの超常現象

「宝くじ当たったらまず何買う?」


講義室を出るなり、僕の隣を歩いている友人が前後関係のない話題を振ってきた。


「奨学金返す」

「真面目か!」


間髪入れずに返した返答に、友人はまったく納得いっていないようだ。

でも奨学金返済は大事だぞ、要は借金なんだから。これから先就職して銀行口座を見るたびに、給与明細から減額されているのを見て、悲しい思いをするのなんて辛いだろ。


「そーゆー話じゃないわけよ俺は、夢の話をしているわけ」

「もう講義は終わったよ、昼寝から起きてどうぞ」

「お前には欲がないの?」


心底馬鹿にした顔をしてくれるじゃないか。


「そういうお前はどうなのさ」

「BMW買うじゃん、んで家買ってー、車庫付きのな。美味いもん食ってー、欲しいゲーム買ってー、あと大学は休学して、世界一周とかしたいじゃん!」

「大学は辞めないんだ」


宝くじに当たらなくても、ぷらぷらどっか行ってしまいそうなのに。


「辞めないよ、だってお前の就活が困るだろ」

「なんで僕の就職活動の話になるんですかねぇ」

「ばっかお前、一緒に世界一周するからに決まってるだろ」


巻き込むな。


「お前と一緒に世界を旅して、世界中の謎や事件を解決して周るのさ」

「妄想ここに極まれり、だな」

「さぁ、そういうわけで今日もやっていくぞ!」


スパーンと景気の良い音を立てて、ドアを開く。サークル棟の一番奥、6畳ほどの小部屋が僕らの活動場所だ。

部屋に入る前に入口に掲げられているボロボロのプレート式看板を見る。

超常現象推理部。

なんだこれは、この看板を掲げた奴の心理こそ超常現象だ。もしくはラノベの読みすぎだ。どこかの団長かお前は。


「なに頭抱えてんだよ。花粉症か?」

「なんでもない」


件の超常現象さんが怪訝な顔をしているが、それを無視してパイプ椅子に腰かける。

友人も机を挟んで向かいに座った。


「早速だが、今日の議題はこれだ」


そういって小さなレコーダーを取り出した。


「なにそれ」

「今回の依頼者、そうだなぁAちゃんから渡されたものだ」

「Aちゃん」

「誰とは言えないぜ、まぁ違う学部の子だからお前は会ったことないんだけどな」

「相変わらず交友範囲が広いことで」

「妬いちゃった?」

「話を続けてどうぞ」


なんだそのドヤ顔は、殴りたい。


「そのAちゃんなんだが、最近彼氏の動向がおかしいみたいでね」

「浮気でもされた?」

「早まるなって。まぁそれを疑ってね、彼氏……仮にBとしよう。Bの鞄の中にこっそりこれを仕掛けたらしいんだ」

「犯罪じゃん」

「まぁ今は置いとけって。そのレコーダーに不可思議なことが起こったみたいだ」


聞いてみようと言って、再生される。

携帯の着信音。その後に続く寝起きなのか気怠そうな男の声と生活音、ちゅんちゅんというスズメの鳴き声。電話の相手とデートの約束をしているようだ。

至って普通。


「何がおかしいの?」

「この電話の相手Aちゃんの筈なんだけど、Aちゃんの通話履歴だとこの日電話をしたのが深夜2時」

「うん?朝かと思った」

「そうなんだよ、Aちゃんもそれが気になったみたいでさ。本当は自分じゃなくて違う相手ともデートの約束をしたんじゃないかって」

「うーん」


僕は深夜に電話かけてくる相手より、モーニングコールしてくれる子の方がいい。


「彼氏……B君のさ。情報他にはないの?」

「Bは最近大学にくる頻度が減ってる。あとは金遣いが荒くなってるみたいで、夜中に町を歩いてるのを見られてるな」

「Aちゃんとの仲は?」

「うーん、なんかプレゼントとか高価になったって言ってたな。でも会う時間がものすごく減ったって、最後にデートしたのは1月に野鳥園に行ったらしいけど」

「2か月も遊びに行ってないのか」

「冷めてるのかどうか、わかりずらいよなぁ」


たしかに、高価なプレゼントは送ってるし、でもデートで野鳥園ってどうなのよ。


「Aちゃん鳥すきなの?」

「Bが好きみたい。というより動物全般が好きみたいだわ」

「鳥好きねぇ……」

「中でもフクロウが大好きみたいだよ」


フクロウ。


「なるほどね」

「なんだよ含み笑いして気持ちわりぃな」


うるせぇ。


「わかったよ」

「まじか!」

「犯人はフクロウだ」

「……は?」


友人は口をあんぐりと開けた。馬鹿にしたような目をしてくれるじゃないか。


「Aちゃんには安心するよう伝えてよ。その電話の相手は間違いなくAちゃんだ」

「でもAちゃんが電話したのは深夜だぜ?」

「そう深夜なんだよ。その録音の中身は」


まだ分からないって顔をしているな。困惑の目に変わる。


「まずその録音の中身で僕が朝だって思った理由、鳥の鳴き声だ。ちゅんちゅんってスズメが鳴いてるみたいに聞こえるそれはスズメじゃないんだよ」

「ちゅんちゅんなくのはスズメだろ。あとは女子を振り向かせたい時の俺くらいだ」


黙れ。


「スズメフクロウ。北欧から中央アジア・シベリアに生息する超小型のフクロウだ。愛玩用として売られてる」

「そのまんまの名前じゃん」

「そう、名前の由来はスズメのように鳴くから」

「Bはそれを?」

「B君は最近金遣いが荒いんだろう?そしてフクロウが大好き。飼うには十分な理由じゃないかな。それに最近彼女とデートしてないんだろ。鞄にレコーダーを仕掛けたってことは、家にも行けてなくて大学でしか会ってないってことじゃないか」


なるほどな。と友人は生えてもない顎ひげを触る動作をする。


「じゃあ、Aちゃんには安心するよう伝えておくよ」

「うん、それがいい」

「あと深夜の電話はきついって伝えとくよ」

「うん。それがとってもいい」

「よぉーし、今回もお悩み解決!」


パンと机を叩いて、勢いよく立ち上がった。

聞き捨てならないことをのたまいながら。


「また俺たちの知名度が上がっちまうな!」


なんだそれ。聞いてないぞ。

最近知らない子から ありがとうだの相談乗ってくださいだの言われるのは、お前が原因か。

まったく。


「ところで気になったことがあるんだけど」

「ん?」

「なんでBはそんな金遣いが急に荒くなったんだ?」


あー、それは……


「宝くじ当たっちまったかぁ」


でしょうね。


「まぁな。そこは詮索しないでおくよ。そういうのってデリケートだろ?」

「そうだね」

「せっかくフクロウ飼ったのに、それが原因で苦労を呼び寄せたら可哀そうだもんな」


う……うん。


「フクロウだけに、不苦労ってな!」

「スルーしたんだから流せよ!!」



でも、自分の身の振り方次第ではすぐにバレてしまいそうなので、B君には本当に気を付けて頂きたい。

顔も知らぬB君だけど、身近な人の不幸には会いたくはないものだから。

というわけで、本日の超常現象推理部の活動はおしまい。

今日は、ありがとうって言われる理由が分かってよかったな。

建付けの悪い非公式サークルの扉を閉めながら、この活動にふとした幸せを感じてしまう自分がいることに、僕は気づいていた。


















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