【KAC5】最低のどんでん返し―お前は知りすぎた
「お父さん、『どんでん返し』ってなあに?」
私がキッチンで夕飯の下ごしらえをしていると、リビングで優子の声が聞こえた。
夫の浩二くんは娘の質問にはいつも真面目に答えてくれる。
「反対にくるっとひっくり返ることだね」
「甘えた犬がお腹を見せるポーズする時とか?」
「そういう場合は使わないかな。例えば推理小説の最後とか、それまでの話の流れでは想像もつかない、思いもよらない人が犯人だったりすることがあるじゃない? 『ええええっ!』ってなるような」
「……うーん、よくわかんないなー」
そりゃそうだ。優子はまだ推理小説を読むような年じゃないもの。浩二くんは少し考えたようで、間を置いてから話し始めた。
「『美女と野獣』って話、知ってる?」
「知らない」
「野獣の顔をした男と暮らすことになった美女の話だ。その醜い男は彼女に対して丁寧に接し、一緒になってほしいと伝えるんだけど彼女は彼の優しさに好意を抱いてはいたものの、なかなか結婚には踏み切れなかった。ところがある日、男が死にそうになってしまい、外出から戻ってきた彼女があわてて『死ぬな野獣! 私と結婚しよう』って言ったんだ。すると彼は突然、かっこいい王子様に変わったんだ。実は彼は昔、魔女に野獣の姿に変えられ、醜い見た目でも心から愛してくれる人が現れなければ元の姿に戻れない魔法をかけられていたんだよ」
「ふーん」
「びっくりしたでしょ?」
「しない」
「だよね」
そりゃそーだw 話が下手すぎる。
「だけど、なんだかパパとママが出会った時の話みたいだね」
「ん?」
どういうことだ?
「ふふふ、ママが言ってたよ。パパはママと結婚するまで、冴えない男だったんでしょ?」
「えっ?」
いやいや! 私そんな話はしてないから!
「だってママはパパと結婚する前は東京にいたんでしょ?」
「えーっと、そうだったかな?」
「パパはママのことが好きで好きで、断られても何年も何年もあきらめられなくて、夏祭りの時に実家に戻って来てたママに土下座したんだよね?」
「はい?」
ああ、確かにそれに近い話はしたかも。ちょっと尾ひれは付きすぎだけど。
「実際パパは高校生の時からママのことがずっと好きだったんでしょ?」
「それは……まあ……そうだけど」
「ママは高校生になってからすぐ、バスケ部の先輩だったパパからモーションかけられたけど、当時は全然相手にしなかったって聞いたよ」
「いや待て!」
しまった!! 年齢サバ読んでたのがバレた!
「あのなゆうちゃん、ひょっとしてこれまでパパがママより年上だと思ってたの?」
「え、違うの?」
「違うぞ。逆だ。ママの方がパパより歳上だ」
「ええええええええっ! ウソでしょ!?」
我が子をだましていたことにちょっぴり罪悪感。
「本当だよ。パパとママ、どっちがウソつきだと思う?」
「絶対ママ!」
まさかの即答!! 私の信用ゼロ!?
「俺、ママより年上に見える?」
「というかママ、すぐ怒るし、落ち着きないし、子供みたいだし」
我が子に子供みたいって言われる日が来るとは思いませんでした。
「他にママ、なんか言ってた?」
「学生結婚だったって」
「えっと……ママの年いくつか知ってる?」
「今年29だって自分で言ってる」
「5歳も詐称してやがったのか!!」
「それもウソなの?」
――ガチャっ
「違う! 違うのよ! あのね、ママはね、ゆうちゃんに『どんでん返し』の意味を知ってもらうためにしょうがなくウソをついたの。本当はウソなんてつきたくなかったんだけど、愛する我が娘のためを思えばこそ――」
「最低だよな」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます