「秋のホラー短編祭り」

永遠に生きる僕たち

「というわけで皆さんが今後、命を落とした時は、この壁に収容されることになるわけです」


 ロボットのガイドさんの説明を聞きながら、僕たちはもう一度目の前の大きな壁を見上げました。


 そこにはデコボコと、たくさんの顔が一定の間隔で埋め込まれていました。年老いた顔、若い顔、それぞれ真っ白な石膏で固められ、目の部分は何もなくて口もぽっかり開いたまま、無表情に見えます。


「質問があります。オレの妹は病気でもうすぐ死ぬそうです。死んだら妹もここに埋められるわけですよね? どの辺りに埋められますか? また会いに来れますか?」


 コージ君が手を挙げて言いました。


「いつでもいらしてください。場所はこの先もう少し行ったところです。ついでに作業しているところをお見せしますね」


 僕たちはガイドさんについて行きました。



 そこでは多くの作業用ロボットが動いていました。そのうちの何体かは白い棒のようなものを壁の中に入れています。


「あの白いのは何ですか?」


 僕はガイドさんに質問しました。


「あれは"ホネ"です。皆さんの身体の中にある硬い部分ですね」


「死んだらみんな、ホネだけになるんですか?」


「はい。死んだ人の身体は古いしきたりに従って焼却処分され、残ったホネだけを収容します」


「すごい!」


 となりにいたスミカちゃんが目を輝かせました。


「ここでは昔からこの作業をしているのですか?」


 後ろのケンタくんが質問しました。確かにこの壁はそれほど大きくはありません。


「このプロジェクトが始まったのはここ数年の話です。昔、皆さんのご両親が生きていらっしゃった頃は、"お墓"という場所にホネが収容されていました。最近、死後の世界が存在しないことが判明し、"宗教"というものの意義が失われたことがきっかけでスタートしたのです。肉体が失われても電子情報として生き続けることができる皆さんにとって、"死"は怖くないですよね?」


「「「はい!」」」



 僕たちは一斉に返事をしました。


 ところがそのとき、一番大きなユウトくんがなぜか泣き出しました。


「どうしたの? どこか痛いの?」


 優しく近づいたスミカちゃんにユウトくんは泣きじゃくりながら答えました。


「ボクは怖いよ! 死んだらみんなと遊べなくなっちゃうじゃないか!」


 ユウトくんがそう言い終えた瞬間、彼を除く僕たちは消えました。



 ユウトくん、これからどんな目に合うのか知らないけど、また会えるといいね。

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