第15話 赤いルージュ

「アンタは、なんでこんなところに来たんだ?」

 田上の〝儀式〟が始まると、ポーカー卓の周辺がざわついた。


「その質問……ぽ、ポーカーキング……アンタが!?」

 相手の男は、目の前の男が悪名高き賭博師、ポーカーキングだった事に気付き、その顔に絶望の色を浮かべた。


「で、なんでだ?」

 田上は相手の絶望する顔に、問いかけを重ねた。


「もうおしまいだ……由美絵……悠斗……お父さんを許してくれ……」

 男は頭を抱えてうずくまった。


「……」

 田上は相手の男を見下ろし、無言でチップを前に出し、ベットした。




「麗華さん、お久しぶりです。最近キレイになったね」


「ありがと。ジョニー。真矢は?」

 最近、麗華は所属店を変えて本業に専念しており、ここに来るのは久しぶりの事だった。真矢とは、一年近く、まともに会ってすらいなかった。


 麗華の服装は、深いスリットの入ったロングドレスに、毛皮のコート。メイクは上品に整えられ、唇には真っ赤なルージュ。


「ボスは最近また、ホストの仕事増やしてるよ。〝獲物〟が少し足りないんだってさ」

 ジョニーはアメリカ人らしいポーズで答える。


「真矢が居ないなら……まあいいか。優さんは?」


「キングなら今日は帰ったよ。最近、相手を破産させる回数が減ってるんだ。今日もそこそこで帰っちゃったよ。調子悪いのかな」


「そう……じゃ、今日はいいわ。真矢によろしく」

 そう言って麗華は店には入らず、階段を上がった。


「どうすんだ?」

 店の外にいた男が麗華に話しかけた。


「〝全身清算〟が減ったのは、真矢じゃなくてユウのせいみたいね」


「……何があった?」

 男はタバコに火をつけた。


「さぁ。あの人には、真矢がサボってるとでも伝えといて」

 麗華もタバコを咥える。男が火を差し出した。


「アイツの今の女の所に行くわ。アンタも来る?」

 麗華は煙を吐きながら、男の方を見ずに言った。


「それ、本人に確認しに行くだけなんだろ? アンタだって、ヤツに……」


「黙りなさい。私の今の立場、わかってんの?」

 麗華は男の手の甲にタバコを押し付けた。


「……はい。すいません」

 男は若干顔を歪めたが、そのまま頭を下げる。


「5年前の私が、バカだった。それだけよ」


 麗華は、男の手の甲でもみ消したタバコを、店の階段に放り投げた。


「やっぱ、アンタは帰っていいわ」


 そう言うと麗華は男を置いて、すすきののソープ街の方に向かって歩き始めた。


 夜の街に雪が降る。


 楽しげに飲み歩くサラリーマン達にも、欲望渦巻く闇の世界に生きる者達の上にも平等に、真っ白な雪がしんしんと降り積もる。


「そろそろ、決めなきゃね……」


 麗華の言葉は降り注ぐ雪に吸い込まれ、誰の耳にも入らなかった。

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