第5話 命を賭ける理由
「これ以上やると、死ぬわよ?」
麗華は田上の背中を指差す。心臓の位置を。
「……大丈夫だ」
田上の視線は麗華を無視して、ディーラーの手元に向かっていた。
「随分な自信だな、オイ」
田上の腎臓に相当するチップを手にしたいかつい男が、下卑た笑みを浮かべた。
「……いいから、続きをやろう」
田上は、己の死を告げられた時とはまるで別人の──何度も死線をくぐり抜けた兵士の様な──刺す様な眼光で、いかつい男を見据えた。
「……な、んだ……よ」
いかつい男は田上の視線にたじろぎ、語気を弱めた。
「いいわ、続けて」
麗華はディーラーに指先で指示を出す。ディーラーは黙って頷き、カードをシャッフルした。
それを、ナイフよりも鋭い眼光のまま、黙って見つめる田上。
ディーラーの手から田上の手元に、滑る様に2枚のカードが配られる。
場にも、伏せられたカードが並ぶ。
「今日はツイてるからな……」
そう言って配られたカードを半分だけめくったいかつい男に向かって、突然田上の顔が振り向いた。
「うおっ!?」
あまりに早い田上の首の動きと、限界まで見開いた目にいかつい男は驚き、身を引いた。
「な、なんだよてめぇ! 俺がサマやってるとでも言いてえのか!」
いかつい男は雰囲気があまりにも変わりすぎた田上に怯え、凄んだ。
「……いや」
田上は既に、お前にはもう興味などないと言いたげな顔で、残り2人をぼんやりと見ていた。
「くそっ……コイツらよりてめぇの方がよっぽど気味悪ぃぜ……今日限りで楽に死なせてやる!」
いかつい男は田上を横目で見ながら、床に唾を吐いた。
「……なあ、あんたらは……なんで、ここにいるんだ」
田上はぼんやりとした表情のまま、3人に問う。
「あ?」
目の落ち窪んだ男が立ち上がった。
「好きでこんな事するかよ、なぁ!」
病的な顔色のまま、男は田上の肩を掴んで揺らす。
「金が欲しいんだよォ……ヤク買う金がァ……」
男は静かに席に戻り、そう呟いた。
「あ、ああ、あたしはね……真矢サマ……ホストの……真矢サマと結婚するのよ……ふふふ……」
女は左手の薬指の爪を……いや、指先をカリカリと噛みながら言った。
「皆、正直だな……あんたは?」
田上はいかつい男を虚ろな目で見据えた。
「言う必要なんてねぇだろ。クソが」
「……だよな」
「ただ」
いかつい男はニヤリと笑う。
「てめえらみたいなカスが絶望すんのを見るのが、好きなんだよ」
「……よく分かった。ありがとう」
田上は静かにそう言うと──
──自分のチップを、全て賭けた。
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