第4話 闇に光る瞳

 田上はポーカーの卓についた。田上以外に卓についたのは、気性の荒そうないかつい男、目の落ち窪んだ病的な顔色の男、手首に無数の傷跡がついた女。


「なんだよこいつ」

 いかつい男が麗華を睨む。


「拾ったのよ。お金が欲しいんですって」

 麗華は真顔のまま応える。


「なんでもいいから早くしろよ!」

 目の落ち窪んだ男がディーラーを急かした。


 田上は、この場の空気がピリピリと張り詰めている様に感じた。なぜか、始まる前から切迫した雰囲気がある。


 ディーラーは顔色一つ変えず、黙ってカードを配り始めた。


 田上に配られた2枚のカード。


 揃っていない。場のカードに期待するしかない。


「……平凡な俺に、お似合いだな」

 田上は失笑する。


「なにカッコつけてんだ、てめぇ!」

 いかつい男が声を荒げた。賭博場全体が、ポーカー卓に注目する。


「し、死ぬかもしれないのに、よ、よ、よくそんなに冷静でいられるわね。わ、私はそれでも、い、いいど……」

 女は薄ら笑いを浮かべながら田上を上目遣いで見据える。


「……し、ぬ……?」

 田上は慌てて麗華を振り返った。麗華はやはり、真顔だった。


「あら、言ってなかったかしら。でも分かるわよね。こんな場所でお金もないくせに、賭けをするんだから」

 麗華は真顔を崩さない。


「死ぬ……負けたら……せいらに会えないまま……?」


 田上は困惑しながらベットする。


「腎臓」

 後ろで麗華が呟く。それと同時に、田上は自分の目の前に置かれたチップが〝自分自身〟であることを思い知らされた。


 田上の額に汗が滲む。


 病的な男も、脂汗をかいている。

 不気味な女は、ニヤニヤと笑っている。


 そこからは、何が起きたか分からぬうちに、1回目のゲームが終わった。


 田上は腎臓の一部と、右眼と、膵臓を失う事となった。


「まだやる? 終わるなら〝清算〟するけど」

 麗華はポーカー卓の後ろにある、バーカウンターの椅子に腰掛けたまま、田上の方を振り返った。その顔はやはり、真顔。


 田上の視界から麗華が消える。周りの時間がゆっくりと流れ始めた。家族との思い出が映画の様に目の前に展開される。

 これこそが走馬灯。田上はようやく、死を覚悟した。そしてその走馬灯が終わると──



 ──ディーラーの瞳が、田上の目に映った。



「……え?」

 田上はディーラーの顔を見たまま固まる。


 ディーラーは無言で首を傾げた。


 田上はもう一度、ディーラーの顔を見る。


「おい! なんなんだよ!」

 田上は叫んだいかつい男の顔を見た。そのまま順に、他のプレイヤーの顔を見る。


 不健康そうな男。不気味な女。


 田上は戸惑う。


「……これ、は……?」


「ねぇ、どうするの?」

 麗華が後ろから田上に声をかけた。

 田上は我にかえり、麗華の瞳を見た。そこには田上の顔が映っていた。


「……続けよう」


 田上の瞳が、店内の明るすぎるライトを受けて、オレンジ色に反射した。

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