第3話 男は闇に誘われる
「ねえ、おじさん……立てる?」
田上が星の輝きと勘違いした、ゴールドの輝きを放つスパンコールのドレス。それは太ももまで露出したミニスカートのドレスで、女は下着が見えない様にか、わざわざ汚い路地裏の地面に、膝をついていた。
「……ん……あ、ああ……立てる……よ」
朦朧とした意識のまま、田上は立ち上がった。体が言う事をきかず、大きくよろめいた。
「ちょっと! しっかりしてよ!」
女が細い両腕で、田上を支える。
女は、麗華と名乗った。幼さの残る顔の上に、ゴテゴテの化粧を塗ったキャバクラ嬢。子供が無理をしている。それが田上が感じた、麗華の第一印象だった。
麗華はそれなりの指名を貰えているらしく、身につけているものは、全て高価なものだった。
麗華は田上を自分のマンションに連れ込んで、食事を与えた。
札幌の一等地に立つ、高級マンションの高層階。誰かに与えられた城。
「そんなにがっつかなくても、誰もとらないわよ」
麗華は田上が食事をする様子を見ながら、口元をおさえて笑った。
「……あ、いや、すまない……何日ぶりの飯だったか……」
田上は自分が犬の様に食事をしていた事にようやく気付いて、照れた様に微笑んだ。
食事は全て、冷凍食品をレンジで解凍しただけのものだったが、それでも田上にとっては、命を救う、至高の晩餐だった。
「何日も食べてないの……? バカなの?」
麗華は呆れた顔で田上を見る。
「……うーん。なんの言い訳もできないな」
田上は首の後ろに手をやって、眉を八の字にして笑った。
「……で、サラリーマンのおじさんが、あんなところで何してたの?」
麗華は薄く微笑んだ。幼さを残した顔立ちに、妖艶さが浮かび上がる。
田上は目の前にいる、少女とも女ともつかないキャバクラ嬢を見て、娘のせいらが大人になった姿を想像する。
「ねえ、なんで?」
麗華の顔が田上に迫っていた。田上は少し驚いて身を引く。
「何も……ただの、体調不良だよ。すまないがこの食事代、今日の夜まで待って欲しい。今、手持ちがないんだ」
田上は食事を終えると立ち上がろうとした。しかし、テーブルの向かいから麗華が、田上の腕を掴む。
「要らないわ。それよりアナタ……お金を、稼ぎたいんじゃない?」
そして、麗華に誘われるがままに田上がたどり着いたのは、すすきのの路地裏……の、地下だった。
「ここは……?」
「アタシの男がやってるカジノよ」
麗華は真顔で応える。
「カジノ……」
当然、そんな賭博場は違法。しかし、田上にとっては既に、そんな事はどうでも良かった。
「やってみる?」
「……稼げるなら」
「それは、アナタ次第よ」
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