日常。そして非日常。

ホウボウ

史上最速で書いた(当社比)

「あー、もう家帰りたいっすわー。まだあの数独の本、あと二ページしか残ってないんですよー。死んでも死に切れないってもんですよ」

「うるせえ。俺なんか夜にばっか仕事が回ってくるから『仕事の付き合いで……』ってカミさんに誤魔化すのがどれだけ大変だと思ってんだ」

 ――おかげで風俗接待通いだと思われてるんだぞ。

 そう続くのを知っているので、皆別のコトを考えだす。


 公安の独立部隊、通称「梟」。

 ハッカー上がりのハッカーだとか、レンジャー上がりの超絶ムキムキマッチョマンだとか、人の良さそうな顔してめちゃくちゃ詐欺してたとか、カルト教団で集団洗脳してたとか……まあ、とにかく普通じゃないヤツらの集まりだ。

 そんな中で、僕は底辺の大学を主席で卒業し『誰も必要としてなさそうだから』とかいうふざけた理由であれよあれよという間に就職が決まっていた、ただの一般人である。


 最初は慣れない環境と変人に囲まれ、一時は胃に穴が空くほどストレスに苛まれた時期もあったものの、今では相手に話と常識が通じない前提で接するようになるようになり、だいぶマシになってきたと思う。

 まあ、とにかくあれだ。住めば都? 的なやつだ。多分。


「そう思えば、今日の仕事ってなんなんすかねー」

 お前事前にある程度説明されてたけど、その話聞いてた? と言いたくなるが、ぐっと堪える。それを言うと説明させられるので。


「あー、悪ぃ。俺も聞いてなかった。もっかい教えてくれ」

 …………回避できない未来だった。


「……今日のお仕事は『攫われた姫を取り返せ』ってヤツですね。どうも某会社の社長令嬢が誘拐されたみたいで、泣きの電話が公安にかかってきたらしく、たらいまわしにされた挙句、ココに周ってきたみたいです」

「おー、久々の仕事にしてはいいじゃん。……で、その子かわいいの?」

「ノーコメントで」

 ――女の子のかわいさでやる気変わるんだけどー? とかふざけたことを抜かすアホハッカーを無視。話を進める。


「身代金を要求してますが、まあココらへんはセオリー通りな感じですね。問題はなんの痕跡も残さずに誘拐された、というトコロなんですけど」

「すげーじゃん。ここ日本だよ?」

「下校の時に消えた、というのは分かっているものの、周囲の防犯カメラには何も映ってないようで、鞄につけていたGPSも反応が学校でロストしてるとか」

「カメラぐらいハックすればどうにでもなるじゃん」

「……と思って解析にかけたんですが、改ざんされた痕跡もないらしく。他の部署ではお手上げ状態でこっちに周ってきたみたいですね」


「――久々に俺の出番か? やっと夫婦喧嘩の憂さ晴らしができるな!」

「最悪銃ぶっ放すことになるかもしれないので、その時はお願いしたいですが。始末書を書くのは自分でやってください」

「とりあえず俺っちの出番なさそうだし遊んでていーい? てか家帰っていい?」

「仕事してください」

「今日はカワイコちゃんとの予定があるから帰らせてもらうぜ」

「仕事してください」

「えー、まだ催眠マスターしてないんだけど」

「仕事中に催眠かけるのはやめてください。あと仕事してください」


「……ということで、各自割り振られた仕事をしてください。帰るのは全部が終わってからでお願いします。給料減らすんで。」

 そう言って発破をかけ、各自を仕事に就かせるのが最近の仕事だ。



 ――そう思えば家の鍵、かけたっけ。




「……気になることがあるんで一旦家に帰ります」

「「「「仕事しろ」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日常。そして非日常。 ホウボウ @closecombat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ