世界のすべてはこの手の中に
「お嬢ちゃん、ペンダントが欲しいのかい? 」
いかにも堅気じゃない、色付き眼鏡をした男がにやにや笑いを投げかける。リウイはひるむことなく、こくこくと頷いて見せた。
「代金はぁ……」
男が、値踏みするようにリウイの引き締まった健康的な体をねめつける。視線がその顔に来たところで、邪魔だったのだろう帽子に手を伸ばした。
「お嬢ちゃんで、っとぉ」
「うわ! 」
帽子を取り上げられて、リウイは声を上げた。その帽子で隠されていた茶色のくせっ毛、そして獣の耳があらわになる。
リウイは自分を見ている男の目が、からかいから恐怖に変わる瞬間をありありと見た。
「うわぁ! 」
今度悲鳴をあげるのは男の方だった。
その目線は、かつてリウイが住んでいた村で、親だったはずの者や、同郷の村人だったはずの者から向けられていたものとよく似ていた。
「化けモっ……」
リウイにとって、自らの名前より耳馴染みのある罵倒語が、飛びださんとしたところで
「いくらだ? 」
やっと追いついたスカイが、冷たい声で男に代を尋ねた。スカイはわざわざ、王宮魔術師の証であるブレスレットが見えるように袖まくりをして、相場よりも高い金額――銀貨1枚を払ってやった。
「お、おお、これで丁度よ、ありがとな」
銀貨を受け取った男は慌てて店をたたみ始める。市場の端にはこんな風に、非合法な……おおむね盗品を売る店も珍しくない。王宮魔術師に見咎められると困るのだ。
「リウイ? 」
リウイは自分のものになったペンダントをじっと見つめている。何か横顔をかたどったレリーフの、石細工のペンダントだ。
「コレ、ボクのトモダチが中に居ル・・・・・・」
「精霊? 」
「ウン」
リウイは獣人故か、人の目には見えない精霊を見ること、力を借りることができた。
今もリウイの周りには馴染みの精霊がいて、リウイを導いたりいたずらを仕掛ける。そんなリウイが「中にトモダチが居る」と言うくらいだから、そのペンダントは特別な力を持つものかもしれない。
「大事にしろ」
「当たり前! ボク、忘れないヨ。スカイが買ってくれたンだもん」
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