世界の全てをほしがる人は
「昴の塔のある場所は元々、この町の魔術師自治区だったんだ。そこだけ魔術師の自治を認める、って王都がお触れを出してな。で、魔術師たちはその土地に住んでたんだが、足りなくなって」
「塔にしたノ? 上ならセーフって? あんなにバカでっかい? 魔術師って……」
スカイは肩をすくめた。リウイが飲み込んだ言葉は容易に想像がつく。スカイも初めてこの町に来て、塔を見た子供のころに思ったのだ。魔術師ってバカじゃないか? と。
「中には魔術師しか入れない。魔術師を養成する施設もあって、そこの卒業生か、王宮魔術師として登録されている者のみ」
「ボクは? 」
「卒業生じゃないし、王宮魔術師じゃないから無理だろ」
昴の塔の足下近くになると、街のにぎわいもどんどん増してくる。通称昴下マーケットだ。そのマーケットの歴史は古く、発端は昴に住む魔術師向けの食料販売だった。
今では昴の街の観光名所にもなっている。
食料を販売する市場、調味料、菓子を用意する露店。昔からそこに店を構える本屋。ペットショップ。金物屋。なんだかよくわからない魔術道具を売る店。
その品ぞろえは、王都のビッグマーケットに引けを取らない。むしろ魔術師向けの品物も多い分、観光客人気は昴下マーケットの方が高いくらいだった。
リウイの目が、露店に奪われてきらきらと輝く。スカイの手をぎゅっと握って、自分の興味のあるものに向かってぐいぐいと引っ張っていく。
そのほとんどは子供が好きそうなお菓子や玩具だった。
「アレ、食べたい! 」
太陽光に当たってきらきらと光るあめ玉。砂糖漬けの花。簡素なクッキー。リウイがねだるものを、スカイはとりあえず一通り買ってやった。
安全を守るためとはいえ、スカイは遊び盛りのリウイを自由に外に出してやれない。せめて部屋で過ごす日が楽しくあるために、今日はリウイの好きなものをできるだけ買ってやるつもりでいたからだ。
「アリガト! 」
包まれた品物を大事に抱えてリウイが満面の笑みを見せる。リウイは今でこそスカイにたいしては心を開くようになったが、出会った頃は、何の感情も見せず虚空を見つめているような子供だった。
リウイを連れてきたのはスカイの師匠である。曰く、人間の家族の間で獣人の特徴として生まれたため、ろくな養育を受けられなかったらしい。獣人の先祖帰りがいると知り、師匠はリウイをスカイの従者としてつけたのだ。
ふらふらとあちらこちらを見ていたリウイが、ふと神妙な面持ちで、ある露店の前で立ち止まった。
それはいかにも怪しい物ばかり置いた、非合法な――町から許可を得ていない者が並べている、露店だった。
「おい、リウイ」
さすがにその店は……と止めようとしたスカイは、リウイのその目が不思議な色に輝いていることに気付いて声を潜めた。
彼女の瞳に映るものは、普通の人間と同じではないという。もう人間がその目に映せなくなった精霊たちは、リウイのかけがえのない友であった。
「トモダチがいる」
リウイの手をとるのは風の精霊。手を引かれるままに、リウイはそのガラクタ売りが端の方に投げおいてあった、古いペンダントを手に取った。
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