ニセモノの世界書
俺は、リウイに買ってきた新しい本をベッドに置き、自分の荷物の中から馴染みの世界書を取り出した。
「ほら、これが俺の本。こっちも同じ世界書って書いてあるだろ。お前がいつも見つめてる空が暗い理由も、そこに載ってる。だから世界書なんて大層な名前なんだよ」
リウイは、先ほどの本を大事そうにかかえて、いそいそと俺の隣に座りなおした。読んでほしいのかもしれない。
「ま、これは本物の世界書じゃないけどな」
「エ!ニセモノなの? 」
本物の世界書は、たった一冊しかない。
真実かどうかはわからないが、不思議な力を持っていたとされる。神の正体まで記してある、といわれる本物の世界書は、貴族の手に渡り、それを所有した者が王となった。
「いや、写しってやつだな。本物の世界書はマジで、世界の全部が書かれてたんだとよ」
「それってイイコトじゃないノ? 」
「まあ、普通はいいことなんだが。貴族に都合悪いことでも書いてたか――あるいは本当に、魔法の本だったのかもな。読むだけで最強になれるとかいう噂もあったらしい」
「エ!そんなのボクも欲しい!」
読むだけで世界を統べることができるとか、所持するだけで最強の力を手にできるのだという噂を持つ世界書を誰もが欲しがったし、誰もが抹消したがって、戦争――内乱が起きたこともある。
「そういう考えを持つ奴がいたから、世界書めぐって戦争したんだよ。だから今は王都で保管されてる」
今は王都のどこかに隠匿されているらしい。
それは魔術師のものだと主張する、完全なる世界書を知っていた魔術師は、大衆に向けて写しを作成した。
それが今この、流通していて、俺が持っている「世界書」だ。
「スカイが読んでくレル?」
「まぁ、少しくらいなら。神話の部分は簡単だから読めるようになれよ」
実際、普段の買い出しなどを頼んでもリウイが間違えたものを買ってくることはほぼない。それくらいの読み書きができるなら、世界書は苦はなく読めるはずだった。おそらく最初から、本というものになじみが薄いのだろう。
「頑張るカラ、最初ダケ! 」
「…仕方ねぇな」
俺は俺の、リウイはリウイの世界書を開いた。
古い本はほとんどが白黒で印刷されているが、リウイの方は何色かで刷られてありカラフルだ。俺の時代よりも産業が発達したのだろう。
…この大陸で獣人が絶滅しかけてるのも、人間たちが森を切り開いたせいだと言われている。
事実王都の近くは本当に洗練された景観で、王都と行き来がしやすい西側の街には工業地帯も多数ある。
自然と精霊は死んでいくのだ。
俺は本をぱたんと閉じた。神話の部分くらいなら暗唱できる。それにそのほうが、リウイの本を――文字を一文字ずつさしていくよりかは、まだマシに読み聞かせてやれる気がした。
「……この世界には、全知全能のアトラという神様がいました」
なぜか背中にこそばゆいものを感じつつ、俺は世界書を朗読し始めたのだった。
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