世界のすべてをなくす予感

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神話


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 この世界には、全知全能のアトラという神がいました。


 アトラが周りを見回しても、この世界は全くの虚ろでした。この世界には、なにもなかったのです。それどころか、なにもないということすらなかったのです。


 アトラはその瞳で何もかもを見通すことができました。しかし、見通すものがなにもありませんでした。アトラ以外はなにもなかったからです。


 それでアトラは、世界を作りました。そして太陽を作りました。そうしてアトラはほんとうに、何もかもを見通して、自分以外になにもないのだということをもう一度確認し、その場に倒れて泣きました。


 何年も、何十年も、何百年も、泣きました。泣いて泣いて、海ができました。

 アトラは初めに天使を作りました。ひとりぼっちはこりごりだったのです。


 そのほかにも、獣人も、魔族も、もちろん人間も、木も草も炎も、なにもかもを作りました。全知全能でしたので、なんでも作れました。けれどぽっかりと穴があいてしまったみたいでした。アトラのこころのすきまはあまりにも大きく、何もかもを作り出しても埋まりませんでした。


 だって生み出した者たちはみんな、あまりに非力で、小さかったのです。そして寄る辺ないアトラの涙の中でおぼれてしまいそうでした。

 それでアトラは最後に、自分の体を皆に与えました。


 アトラが泣いた海のおかげで、アトラの体には草が生え、アトラは大陸となりました。

 

 たくさん欲しがり、作っても満たされなかったアトラのこころは、非力なものたちに与えることにより満たされていきます。

 もうアトラは寂しくありません。このアトラの上には人々が満ちていたからです。

 アトラは幸せな眠りに落ちました。


 アトラはこの世界の礎となり、背骨はアトランティアを南北に貫くラキェスト山脈になりました。北の果てはアトラの頭があり、神殿があります。

 そこからアトラはこのアトランティアの全てを見守っているのです。満たされ眠りながらも、人々を見守っているのです。


  アトラはこの世界が、他の誰にも盗られず完璧であるために、この世界を隠してしまいました。太陽からも、この世界を見えなくしたのです。太陽はあまりにも明るく、アトラはひとりだということを、アトラにいやというほど見せつけてしまいましたから。


  やがて、アトラの心臓にあたる場所に、王様たちは都を建てました。それが王都でした。王都には天使たちが住んでいました。アトラと天使に見守られながら、人間はゆるやかに発展していきました。


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