神殿

 リウイは神殿にいた。たどり着いたそこは確かに、純白の聖域だった。

 大きな翼をたたえた女神の像を中心に、こぢんまりとした神殿はただそこにある。女神像の上に屋根があるだけの、簡単なつくりであった。けれど、リウイは柱に触れて、寒気がするのを感じた。苔むす気配すらなく、純白のままの神殿自体も、女神像と同じ材質でできていると直感した。


(……ナニ、コレ。時間が止まってル?? )


 腐食とか、経年劣化――古びる、という概念が全くないかのように、神殿はただそこにあった。今そこにできたというくらいの自然さで。

 ここが全くの秘境という点以外では、完璧な神殿だった。


(変……ナノ)


 神殿には、女神像しかなかった。真っ白な床に、真っ白な壁に、真っ白な柱。その中心にある女神の像。


(今まで……スカイと行った神殿とぜんぜんチガウ。)


 リウイは、これまでスカイと立ち寄った神殿や廃墟を思い返していた。今まで行った場所には、こことは違って人が生活した跡があった。穢れをすすぐための泉があったり、拝謁するための、説話を聞くためのイスがあった。

 ここには何もない。女神の像以外何もない。


 元から、女神像だけがここにあって、後から屋根をつけたような。


「……お邪魔シマス」


 女神像と目が合ったような気がして、リウイはぼそりと呟いた。


(……アレが神様なら、どんな神様ダッテ、敬わなきゃダヨネ)


 リウイは女神像に近寄ってきょろきょろとあたりを見回した。アンダンはまだ来ていないように見える。女神像のそばに隠れて、スカイを消してと願う前に、それを阻止するのが目的だ。

 リウイが女神像に触れた瞬間、それは起動した。機械音と共に。


『ネガイ、ヲ』


「しゃべった!?」


 合成的な声が頭に叩き込まれて、リウイは目を白黒させた。呼応するかのように、女神の像の翼が大きくはためく。


『ネガイ、ヲ、ササゲヨ』


「アンタ、なに!?」


 全身の毛が逆立つのを感じる。リウイは、これまでスカイに直接つながったとき――従者として、その身に宿す精霊の力を貸すとき――でさえ、ここまで明瞭な言葉を叩き込まれたことはなかった。



『ネガイ、ヲ』


 それは壊れた機械のように、同じ言葉を繰り返す。願いを捧げよ。願いを叶えるでもなく、祈りを捧げるでもなく、願いを捧げよと。


「あんたはナニ?ネガイを言ったら、ナニがどうなるの?」


『ワタシハ、願望機。代償ヲモトニネガイヲ具現化スル』


 その女神の像は、笑っているように見えたし泣いているようにも見えた。


『ワタシハ、願望機』


「願いなら、いくらでも捧げよう」


 女神像の声に呼応するかのように、遠くで足音が響いた。

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