導かれるままに
精霊たちが渦を巻き、リウイが尋ねた「ウイルナの森」までの道をその輝くからだで教えてくれる。導かれるままに、リウイは夢中で岩を駆け上り、草をかき分けて走った。
ライラからもらった鍵を、その左手にぎゅっと握りしめている。
結局村のどこにスカイが閉じ込められているかはわからなかったから、リウイは直接アンダンを止めるためにウイルナの森を目指すことに決めたのだ。
森までの道は険しかった。もう老齢のアンダンが普段から、こんな道を通っているとは考えづらかったが、どんな道であれ誰より早くたどり着けばいいと考えた。
聖域である。意図的に険しい道しか残されていなかったかもしれないし、災害とやらで道は荒れ果て、草が生い茂っている。まあ、舗装されて「聖域こちら」という立て看板があるはずもない。
(そんな観光地のような聖域は要らないヨネ)
思いながら、リウイはできるだけ迅速に、森へたどり着くことに成功した。
「……ここが、森? 」
何の変哲もない森の中……しかしその入り口で、精霊たちの行進はぴたっと動きを止めてしまった。それ以上先に進もうとしない。
「……ここにアンダンがいるノ? 」
森の奥深くに進もうとしたリウイの服を精霊がはしと掴む。それはリウイがよく見る風の精霊で、この精霊の行進を先頭で指揮していたものだった。
『ヤメヨウ、コワイヨ』
『ヨクナイヨ、ワルイヒトガイルヨ』
『コノママ、イッショニイヨウ』
『ボクラト、ニゲヨウ』
口々に精霊が言うのは――どうやら「危ないからこのまま精霊と共に過ごそう」という、リウイにとってはこの上ない誘惑だった。
確かに体もそこそこ充分に育ったリウイは、このままスカイの元を離れて森の中で、精霊の加護を受けて生きていくのは容易いだろう。
生まれた時でさえそうだったのだから。
「このまま……」
想像する。森の中で、何の危険な目にも遭わずに、精霊たちと共に暮らす自分を。
「ソレは幸せカモだけど……」
リウイはラピスラズリ・インで留守番をすることが多かった。ジッドはリウイに甘く、スカイが居なくて寂しいだろうとクッキーをやいてくれたり、行商人が差し入れてきたおいしいものをくれたりした。
しかしリウイは、どんな美味しいものを食べても、綺麗なものをみても、どこかそれまで以上に寂しさを感じることがあった。
「ボクの幸せハ、スカイの隣にアルみたい。スカイが居ナイと意味がナイんだ」
リウイがきっぱりと言い切ると、精霊たちはそれ以上、誘いはしなかった。
初めに止まってしまった風の精霊の一部が、またおずおずと進みだした。
『キヲツケテネ』
精霊はリウイの頬に口づけて、その手を引いて森の奥へさらに誘う。
森が突然えぐれたように消失して、なにもなくなった地面の上に、真っ白な神殿が建っていた。
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