30 祈ってはいけない神様

「ボクが知ってる神様は、祈らなきゃダメな神様だったヨ。ボクは祈らなかったケド。どうして? 」


 神様には祈りをささげるものだと、リウイは理解していた。初めての価値観に戸惑いながら訪ねる。ライラの答えは、リウイにはやはり信じがたいものだった。


「ウイルナ様の像に願うとね、なんでも願いを叶えてくれるのよ」


「ナンデモ!? 」


「そうよ。でも絶対に、祈ってはいけないの。たとえウイルナ様に、願えと言われても」


「どうして?」


「願いは、絶対に叶うんだって。雨も降るし、いなくなった子も見つかるし……死んだ人も生き返るんだって」


 リウイにはなおさらわからない。絶対に叶うのであれば、祈ったほうがいいとリウイは思う。そうすれば世の中の不幸なんて絶対に何もかもなくなってしまう。

 今までない暗いトーンでライラは答えた。


「願いが叶うとね、それが大きな願いであればあるほど……災厄も大きくなるから。村に住めなくなったのも、たぶん」


 ライラは押し黙ってしまった。リウイは何も答えることができないで、水を飲むだけだった。

 空になったコップを見て、ライラは再び水をくんで渡した。その時にライラは戸棚をあけたが、そこにはパンのひとつも入っていなくて、ライラは小声で「ごめんね」と呟いてふたたびリウイをまっすぐに見つめた。

 そしてパンのかわりに小さな包みを渡した。


「他人の不幸と引き替えに願いを叶えるのが……ウイルナ様の森の秘密なの」


 リウイは包みを開いて見た。それは鍵だった。古びた、元は金色だったろうけれど、今は茶色く変色してしまった鍵。


「村長さんはたぶん、ウイルナ様に願うわ。いままでだってそうだった。……森のことを知った人を、消してきたの。ウイルナ様に願って」


「ええ!?」


 勢いよくリウイが立ち上がったせいでガタンっ!と音を立てて椅子が倒れる。ライラは俯いたままだった。


「……私が口を滑らせたせいで、スカイ様は捕まってしまったの……わたし、どうにかしたいのに、どうにもできない」


 はらはらと涙を流す。その涙が、とても美しくリウイには見えた。こころからの涙だ。リウイはライラの腕をしっかりとつかんだ。励ますように。そしてまっすぐに見つめ返して頷く。


「ボクが絶対に助けるカラ! 泣かないで、大丈夫ダヨ!! だからボク、もう行くネ」


「……もう、こんなこと起きないように……ウイルナ様の森なんか、消えてしまえばいいのに…」


 リウイはそれに答えるすべを持ち合わせていなかったけれど、ただ風のようにスカイの元へかけだした。

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