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「……スカイと授業以外であまり話したことはなかったですけど、いきなり話しかけてきたと思ったら、人間じゃないだなんて。私、新手のいじめかと思いましたよ」


 ユエインは昔をおもいだしてくすくすと笑っていた。おおむね孤独だった昴の訓練時代、気を抜けば人を殺してしまうのではないかと怯えていたあのころ、スカイだけは――多少黒焦げになりながらも――絶対に死なない、と言い切ってくれた。

 それがユエインにはなによりうれしかったのだ。


「実際そうだったろ」


「いじめがですか?」


 ユエのからかいに、スカイは沈黙で返した。


「冗談です。そうですね、私は確かに、純粋な人間ではありませんでした。それを隠して生きていくのは大変でした。……とはいえ、純粋な魔族でもありませんでしたけどね」


 魔族、とはこの世界にひっそりと生息する、闇に生きる種族だ。彼らは、実体を持たずに生きることができ、そしてそれゆえ好きな姿に自分の外見を変えることができた。

 限りなく闇と魔に近く、魔力が人間の数百倍あるという伝説さえある、人間に恐れられていた種族だ。

 魔族は天使種族と違って未だに大陸に生息している……といわれている。とはいっても、闇に溶ける魔族の実態を知るものは、ほとんどいない。

 その魔力は強大で、もし一人の純粋な魔族と戦うとなると、人間の魔術師が10人以上必要だと言われていた。それも完璧に戦闘訓練を受けた、ちゃんとした魔術師を。


「半魔族、か」


「ええ。……詳しくは言ってませんでしたね。私の父が魔族です。祖父は魔術師で、魔族と契約するために、自分の娘を差し出しました。それが私の母です」


 半魔族は、魔族ほどの魔力も持たず、人ほどの強靱な体も持たない。スカイもユエイン自身他に半魔族の人間を見たことがなかった。


「そうか。半魔族に会ったのはお前が初めてだった。……でも、俺がもし契約を交わして魔力を借りることができるなら半魔族にすることを昔から決めていたんでな。俺にとってお前が半魔族のほうが都合がよかった」


 きっぱりと言い切るスカイに、ユエインは目を丸くした。


「どうして?」


 半魔族は、魔族の血が半分しか流れていない。人間より数十倍協力ではあるが自然と、魔力も魔族には劣る。


「魔族は魔力を使って生きてるだろ。人間で言う生命力だ。もし、半魔族のお前が力を使い果たしたらどうなる? 」


「そうですね……魔力が回復するまで一時的にただの人間のようになる、でしょうね」


 ユエ自身試したことはないのだが、きっとそうだと思う。この肉体は生身だから、魔族の力に依存している魔力が一時的に枯渇すれば、残るのは母からもらったこの体だけだ。


「俺が魔族と契約したとして、純粋な魔族の力をもし使い果たしちまったら、そいつ消えちまうだろ。お前は消えない。遠慮なく使える。その方が都合がいい」


 ユエには黒猫の向こうに、スカイの微笑が見える気がした。ユエも自然笑みがこぼれる。その穏やかな空気を切り裂いたのは、スカイ自身の言葉だった。


「と。そろそろ見回りがくるな。話してられないだろう。ウイルナビレッジに頼む。」


「え、見回りって、スカイ、どこかに捕まって…?」


 ユエの返事を待たずに、黒猫の姿はかききえた。ユエインが思っていたより、事態は急を要するようだ。

 その時ユエはアッシュを起こして、朝を待たずに出発することを決めたのだった。

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