夢と現実の境目
24
ユエとアッシュは、しばらく味わえなくなるであろうふかふかしたベッドの上で眠っていた。
カーテンを開け放した窓からは夜空が覗く。冴え冴えとした夜の月の光が、二人の寝室に差し込んでいた。
窓の外に、生き物の影が差した。その影が月明かりに照らされると、それが真っ黒な猫であることがわかる。その猫は音もなく部屋の中へ入り込んだ。
ユエが気配に気づいて目を開ける。
「あれ、スカイ」
猫は、ユエの声に促されるようにベッドサイドのテーブルの上に座るとスカイの声で話し始めた。
「本当はこういう、野暮な状況で話したくはなかったんだが」
「あら、見た目はとっても詩的で美しいですよ。月の光を背負った黒猫さんとお話しできるなんて素敵です」
くすくすと笑いながらユエが体を起こす。毛布から覗く夜着は、月の光を受けて光沢を放っている。目利きが見ればそれが一目で高級な絹だと知れるだろう。
あらわになった陶器のような白い肩には、複雑な文様が闇色で描かれている。入れ墨のようでもあったが、ユエの場合はこれが生まれつきにある。
「それに、スカイがこんな手段を使うってことは、きっとそれなりに大変な状況でしょう」
「……まあ、そこそこな」
ユエは思わず噴き出した。使いにしている猫には表情がないが、その声音からスカイが機嫌を損ねて思い切り仏頂面をしていることが想像に難くない。
「それで、どこまで向かえばいいですか?」
「そう遠くないと思う。俺たちはリートルードと昴の街を行き来する乗合馬車を途中で降りたんだ。森の中にあるウイルナ信仰の村で、リートルードか、その近くのオーレストルという場所では、ウイルナヴィレッジと呼ばれているみたいだ」
まだ魔術師の学校に行っていたころに習った、この世界の地図を思い出してみる。大陸の中央、西側に王都。真ん中に山脈。東側は母校があった昴の街。
「…私、地理が苦手でした」
「ユエインが苦手でも、アッシュが得意だろう。傭兵なんだし、ユエが望むならどの町でも、下町の安い酒場を紹介してくれるくらいには詳しいさ」
「それもそうですね……ああ、懐かしいですね。こんな夜でしたよ」
ユエは目を閉じて思い出に耽る。
まだ子供だったころ。昴に居たユエは、特進クラスにいたが落ちこぼれだった。
そこで昴で一番の有望株だったスカイと出会った。
出会った時のことを、今でも昨日のことのように思い出せる。幼いスカイはユエを捕まえて「お前は人間か」と問うたのだ。
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