23
ライラと行き会ったリウイがとっさに頭を隠すが――普段そこにあるはずのキャスケット帽はない。その獣耳を見て、ライラが悲鳴をあげることもリウイは覚悟した。獣人族を知る人間は少ないから、スカイの従者として回った地域では悪魔と罵られたこともあった。
「ごめん、ボク、スカイの仲間なんだ。もう夜なのに帰ってこなクテ探してるんだ。村を襲ったりは、しないツモリだから」
ライラはリウイの姿を見ても別段慌てはしなかった。リウイの必死の勢いに驚きはした、という程度だ。ただ、スカイ、という名前を聞いてライラの瞳に深い悲哀の色が浮かび、はらはらと涙をこぼす。
「天使様……スカイ様は、私のせいで……村長様に捕まってしまったの……」
「ソーナノ!?」
リウイはライラに駆け寄った。両手は汚れていたので、しっぽでその涙をぬぐう。居所が判明した時点で、リウイはあまりスカイの身の心配はしていない。
普通の人間がスカイの命を脅かせるわけがない、と考えていたからだ。
「それで、ウイルナ様の森を狙ってるって、村長さんは思い込んでる……このままだと、スカイ様は女神様に、消されてしまうかもしれないわ」
「……エーット」
もともと頭の回転が速いほうではないリウイは、突然叩き込まれる長い文章に頭が付いていかない。とりあえずライラの手をぎゅっと握った。消される?誰に?何に?…誰が?
「……とりあえず、ウイルナの森がナニかから、ボクに教えてくれない?」
ライラは、小さくうなずいた。そしてリウイを見て、持っていた洗濯物…真新しい白いシーツをその頭からすっぽりかける。そしてリウイの手を引いて、家まで手を引いて歩きだす。
何も知らない村人たちから見ると、小さな子供がライラの洗濯物を運ぶようにも見えるだろう。ライラは小声で、リウイの耳元でささやいた。
「ね、きっと村の人に見つかっちゃいけないわ、私のおうちに来て。あなたは…」
「ボクはリウイだヨ!」
ライラの家にたどり着き、頭からかけられたシーツをとって丁寧にたたむ。
「ねぇ、ただの愚痴だと思って聞いてくれる?」
その、思いつめた様子にリウイの全身の毛が逆立つ。それは精霊の気配
「……本当は思っちゃいけないって思うんだけど……ウイルナ様の森は……本当は存在しちゃいけない、って思ってるの……」
「ドウシテ?」
「……人を消すこととか、簡単に願いをかなえられる…そんな森、あっちゃいけないのよ……」
リュイは、ただならぬ雰囲気にただ頷くことしかできなかった。
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