22

 風の精霊がスカイを天使と言い切った。リウイは、天使と呼ばれるものについての朧げな記憶を探していた。


 今はもう絶滅してしまった天使種族というのがいて、そのひとたちが使う魔術は人間と違って精霊に協力を仰いだし、文字を使ったらしい。なぜかスカイはその力を持っている。

 リウイが先祖返りで獣人の体を持って生まれたように、きっとスカイもそんな感じなんだろう、というかスカイ自身わからないからそうとしか言いようがない、と言われた。


「そそ、天使サマ天使サマ。気がついたラ居なくなってて。イヤ、居なくなる瞬間はみてたんだケド、帰ってこなくて」


 精霊たちがそこここに集まって、ワイワイ会話を始めた。


『天使サマ、村ノヒトニ捕マッタワ』


 これは風の精霊。


『アノ、抜ケ道ヲツカウヒト?』


 つややかな鱗を持つ精霊は、水の精霊かもしれない。


『アノヒト、マダ抜ケ道ツカッテルノ?ヨクナイネ、世界ガヘンニナル』


 火の精霊と風の精霊、そして水の精霊がひそひそ話す、その内容はやっぱりリュイには理解できなかった。ただ、何か悪いことをしているヒトが居るみたいだとはわかる。


『アトネ、ヘンナヒト近クニ来テル』


『闇ノヒトと一緒ニ来テル。僕ラノカワッタトモダチ、キヲツケテ』


「うん、アリガト。それでボク、外に出たいんだけど」


 精霊たちが解散しそうになったので、思わず呼び止める。精霊たちは心がないとスカイに言われたが、リウイが見るに彼女らは心底、気の毒そうな顔をして口々に言った。


『カワイソウダネ』


『カラダニ縛ラレタトモダチ、キミダッタンダネ』


 リウイの胸がちくりと痛む。それはリウイの中の精霊の心が還りたがっているのか、人の心が疎外感を感じているのか、もう本人にもよくわからなかった。


『トクベツダヨ』


『ソウダネ、人間ガ悪イカラ』


 火の精霊が次々と、窓の格子に近づいた。物質に触れないはずの手を、ぴったりと鉄格子につける。窓ガラスが格子ごと溶けた。


 おそらく火の精霊が自分の体を高温にして、ガラスの形を変えてしまったのだ。

 割っていないから音も鳴っていないし、破片も出ないし、窓から外に出るときに体を傷つけたりもしない。


「やるジャン!」


 それは精霊を使う魔術に他ならなかったのだけど、リウイにその自覚はなかった。トモダチという人の力を借りているだけ、と思っている。

 ぐにゃりと曲がった鉄格子に体が当たらないように。リウイは背中の、精霊と同じ透明な羽根を広げて、ぴょんと通り抜けた。


 さあ、夜になる前にスカイを探さなくては。そう思ったところで……洗濯物を抱えて、泣いているライラと目があった。

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