きれいな亡骸と舞う少女


 スカイは意識を失ってしまった少女を肩に担ぎ、視線を巡らせた。


「リウイ、近くに精霊はいるか?」


 森の中なので、精霊がそばにいるだろうとあたりをつけたのだ。


 工業に頼り発展してきたアトランティアでは、精霊は稀少だ。

 人間は精霊を殺してきた。今なお、大陸の西側にある工場が吐き出す煙で精霊は死に続けている。


 自然と精霊に力を借りる「魔法」を使えるものはごく少数となった。

 殆どのものは自らの魔力で世界を書き換えて「魔術」を行使している。


 世界の理が「9×9=81」ならば、魔力によって「9×3×3=81」にしてしまう。滑り込ませた「3」に氷や炎の力を持たせて、魔術師は魔術を使う。


 スカイはもちろん魔術を使える。スカイは、従者としてリウイを連れている。精霊と親和性の高い獣人族の肉体を手に入れた王宮が、その身に精霊を宿らせたので、魔法を使うことも可能だった。


「リウイ」


 スカイの声に反応して、リウイはその獣の耳を立てた。正式にはリウイ・キリル。キリル村のリウイという意味だ。背中に半透明の妖精の羽根と、獣人族の証である猫耳と尻尾を持っている。


 精霊由来の背中の半透明の羽根で忙しそうに飛び回りながら、その猫のような尻尾をスカイに絡める。

 じっと少女を見つめてから、リウイは不満そうに言った。


「こいつ、どうすんノ?王都マデつれていくのはヤダ!」


 駄々っ子のようなリウイの言葉に、スカイはため息をついた。


「連れて行くわけ無いだろ。ここいらで村の心当たりがないか精霊の仲間に聞いてみてくれ。この子はそこの子だろう。早急に送り届けなきゃ……」


「送り届けなきゃ?」


「俺たちが暴行犯の疑いで警察の世話になる。それだけは御免だ」


 スカイの言葉におかしそうに笑って、リウイは半透明な精霊の羽根を何度か震わせた。

 そのまま空へ、駆け上がっていく。森のそこここに散った精霊のかけらたちがリウイに集まり、その羽根に宿る。リウイは集めているのだ。意思を保てなくなった精霊仲間の死体を取り込んで、リウイは強くなる。

 その力を借りて魔法を行使するスカイも、死体の山を利用して強くなるのだ。

 精霊の死骸は、朝露のようにきらめいて、人間のそれと違って美しいと思えた。いくつもの光の粒が優しく語りかける。


―ありがとう

―また一つにしてくれてありがとう


 人間は、死んでもこんなに綺麗なままいれるのだろうか。

 スカイはそんなことを考えていた。

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