パワーアップ!オールモード!

幻典 尋貴

パワーアップ!オールモード!

「さぁ、追い詰めたぞ鹿野郎ッ」

赤い服を着たリーダーらしき人物が咆哮ほうこうする。

舞台は舞楽須ぶらくす市の北にある森の深部。鹿型の怪人と、四人の戦士が相対している構図。

戦士達の被るヘルメットのバイザー部分はコウモリのような形をしており、その上にはそれぞれ算用数字の1から4までの文字が書かれている。その容姿は最近巷で話題となっているバットレンジャーそのものであり、鹿型の怪人――ベニソンは街での行動が見つかってしまった事を後悔していた。

「チャチャっとやっつけて、早く帰りましょ」赤い一号の隣の黄色服が言う。頭部に書かれた数字は3、三号はバットレンジャー唯一の女性戦士であった。

「このベニソン様を簡単に倒せると思うなよ」

そう叫び返すとベニソンは右肩についたツノを伸ばし、三号を絡め取ったのちに引き寄せる。

好まない戦法ではあったものの、ベニソンは三号を人質に取る。彼女が側にいる間だけは自分の身を守ることが出来ると踏んだのだ。

「クソッ!卑怯だぞ、鹿野郎」

その一号の叫びに、自分の作戦が成功したことの安堵を覚える。

「ガッハッハ、卑怯なのはどちらかな。四対一で戦おうとしている貴様らよりはマシだと思うがね」

正義を貫こうとする人間には、精神攻撃が効く事が多い。どうやらベニソンの攻撃は、しっかりと一号達にも効いたようで全員が膝から崩れ落ちる。

この様を王様に見せたら、どんなに喜ぶだろうか。一つくらい位が上がるのではないだろうか。

ベニソンがそんな事を考えていると、ある事に気付く。

(ヤバイ、この後どうすれば良いんだ)

そう、彼は今日生み出され、地球に送られた身。基本の知識のみしか入っていないため、戦い方などほとんど知らないのだ。今やっている戦法も、街で偶々見かけた電気屋のテレビを見て身につけた物だ。

そこでベニソンは思い付く。バットレンジャーに三号を返す代わりに逃がしてもらおう、と。

「ガハハ参ったか。ならどうだ、交換条件と行こうじゃないか」

「交換条件?」青服の二号が食いつく。

「そうだ、こいつを返す代わりに俺を見逃せ」

ベニソン的にはそんなに悪くない取引だと思っていた。バットレンジャー側は三号が帰って来るわけだし、ベニソン側も逃げれる。

ベニソンはこんな怖い目にあって、もう一度バットレンジャーの前に立てる勇気はないと、基地に篭ろうとまで考えているのだ。

ただ、そんな怪人の心情をバットレンジャー達が読み取れる訳がない。

もちろん、バットレンジャーは疑った。

「どうする、一号」二号が言う。

「三号が帰ってくるなら、別に逃がしても良いのではないでしょうか」緑服の四号は賛成意見を言う。

それを聞いてベニソンは思わず頷く。

「ただ、アイツが本当に逃げるだけとは考え難い」ベニソンの思いと反して一号が反対意見を言う。「三号を本当に返してくれる確証が得られない」

その意見を聞き、ベニソンの思考が展開する。

(確かにそうだ。コイツを返してやる理由は無いな)ウンウンと頷き、(いや、やっぱりバットレンジャーに恨まれるのは怖いなぁ)と改めて感じ、内心焦り始める。

「三号を返すというのは、本当だ!」

ベニソンはそれを言い、安心しきってしまったが、はたから見たら墓穴を掘った様にしか見えない。

「やっぱり、嘘っぽいですね」と先程は交換条件に賛成であった四号が言いだす始末。

「こうなったら、切り札を出すしか無いな」と一号。

「もしかして…でもあれはまだ調整中じゃ」

「大丈夫だ、今朝調整を終えた」慌てる二号に四号が言う。

それを聞いた一号がヘルメットの奥でニヤリと笑った様な気がした。

一号が右腕を真横に突き出すと、風が突然吹き出す。ホーゥという声とも音とも取れる様な物が聞こえ、次の瞬間一号の身体が光り輝く。

「一号オールモードだ!」一号が名乗ると、身体の輝きが一層増す。

その肩には梟が羽を開いた様な形の肩当てがあり、胸には梟のくちばしと目があしらわれている。まるで梟を被った様なアーマー。

背から取り出した剣には、ガードの部分に同じく羽を広げた梟が彫られている。

「な、な…」

ベニソンは恐怖で動けなくなる。

「オールソードスラァアアッシュッ!」

剣の先から出た金色の波は三号を避けると、後ろから回り込みベニソンを背から穿った。

「ヴ、アアアァァァッ!」

爆発、続いて熱波が周りの木を燃す。

そうして、ベニソンの短い生涯は幕を閉じた。

「ありがとう、一号」怪人のてから解放された三号が言う。

「どうって事ないさ、仲間のためだ」

四人は拳をぶつけ合い、勝利を喜んだ。

「さ、晩飯でも買いに行きましょうか」

二号の合図で皆がスーツを脱ぎ、夕焼けの中をスーパーへ向かい歩いて行った。

――その晩、一号達が鹿肉料理パーティをした事は、また別の話。

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