獣人専門探偵 小宮
みち木遊
2✕✕✕年 11月4日 連続無音傷害事件
初めまして、私は小宮。
いつしか共存しだした獣人が引き起こす事件を取り扱う探偵だ。
獣人というのはチキュウに既存する動物と性質がほぼ合致する、獣と人の間みたいな奴等だ。
その種類も多種多様で、犬っぽかったり、猫っぽかったり。
彼等は人間と仲良く暮らして、今じゃ、人間と獣人の結婚は当たり前だ。
でも、獣人も犯罪はする。
獣人と言えども人間と同じ。
憎みや恨み、たまには残虐性を持った方だっている。
ただ、獣人の犯罪がすこし扱いが違う。
なんせ、獣の性質がある。
鋭い牙で一噛みだったり、毒で全身の筋肉を弛緩させ誘拐したり、人間には到底できない芸当をしてくる。
だから、獣人専門の探偵が重宝される。
訳あって、その一員、というよりは現存する獣人専門の探偵で最も古株の私もそうされる一人で、これから語るのはそんな仕事をわかりやすく語れる事件だ。
十一月の下旬、二ホンのホッカイドウで十人の若者が何者かに空から何かで切り付けられるという事件が発生した。
被害者たちはある街の学生であり、ある林道を通り学校へ通っているという日常的な共通点があり、彼らの共通点では夜に犯行が行われた事、被害者たちの傷跡が一方二つずつの傷跡が両端にあるという事、犯人の影を見た被害者はそろって上から来たという事が一致しており、犯行の手口から同一犯であると認められた。
十月三十日にそんな情報と協力の依頼がホッカイドウ警察から送られてきた。
たまに警察から依頼されることはあったが、トウキョウに住む私のためにわざわざ、明日の午前十一時発のホッカイドウ行きと示された飛行機のチケットも同封で送られてくるのは初めてだった。
珍しいこともあるもんだ、それほど警察も首を捻る事件なのかな、なんて思いながら、荷物をまとめ、もらったチケットでホッカイドウに出向いた。
出向き先で担当の刑事さんと事件に関わっている警察のお偉いさんが向かえに来てくれて、それなりに挨拶をした後、普通の車に乗せられて、事件の話を聞いた。
送られてきた情報に加え、『犯人が来た音どころか、立ち去った音が聞こえなかった』、『関係しているかどうかわからないが、被害を受ける直前にパキッと音が出る枝を踏んだ』という二つの情報をもらった。
私の経験上、北海道という亜寒帯と温帯の中間地点のような気候であり、林道が事件現場、音に関する情報に被害者の傷跡が一方に二つが両端になるように付いている、そして極めつけは上の方からやって来たという目撃者の供述…、ここから犯人と一致する動物は、恐らくフクロウだ。
私はそのことを車内の刑事さん方に訊かせると、担当の刑事さんは、
「フクロウですか…。森の博士とか、ギリシャ神話じゃ、平和と知識の女神であるアテナの象徴とされる鳥ですよ?
恐らく新人だったのであろう、彼のその発言に私はその先、大体そう思う事件ばっかりだぞ、なんて先輩でもないのに先輩ずらで、答えた。
「賢明な獣人…まぁ、たまにやりますよね、犯罪。人間と同じですもの。それに女神アテナを象徴する鳥であってもその知性を現すというだけで会って平和を表してるわけではありませんし、音もなしに獲物を狩ることから森の忍者とも呼ばれてますしね」
それに担当の刑事さんは「はぁ…」とわかっているのかいないのか、そんな返事をした。
まぁ、新米みたいだし、そのうち学ぶことを期待して今回はいろいろと我慢しよう、と何も言わなかった。
事件現場に来て、検証をする。
周囲には森が生い茂り、林道というよりは少し整備された獣道というのが正しい気がした。
しかし、車は通ることができる広さはあるところから見て、それほど道に対する危険度は無いのだと考えた。
しかし、警察がこの道を封鎖しないのはなぜだ、そう思いお偉いさん達に訊いてみると、
「被害者たちの住む街から、彼等の通う学校に行くためにはこの道しかないんですよ。一応、自治体とかと仮の道を作ろうって事になったんですけど、学校がもう設立三百年でして、設立当時と違って、ここら辺は森になって道を作れるほど地盤が安定してる場所がないんです。唯一、安定しているのは事件現場の道だけっていう結論になって、こうなってるんですよ」
とにかく難しいという事だった。
捜査をしていくより、現行犯逮捕の段取りが最も効率的と思える。
だが、被害は最小限のほうが良い。
理由が理由なら仕方がないと、念のために用意していたある一式の道具が入ったバッグを車内の人間に見せ、それの使い方を説明した。
そして、私は提案した。
「これは犯人がフクロウ型であれば有効となる作戦です。一旦、申し訳無いですが若い捜査員に標的にされてるという学校の制服を来て、囮をしてもらいましょう。しっかり録音録画ができる状態で被害に遭ってもらいます」
当たり前だが、私の提案にお偉いさんが反論した。
「そんな使い捨てに出来るような人材、私達の元にはいませんよ?」
それに私は返す。
「ツツドリという鳥もフクロウと同様に前後に爪が四つあります。蘇六地域が苦手で暖かい所へ渡る渡り鳥なんですが、最近、獣人用の防寒グッズが発達して、そういった種類の獣人も寒冷地での生活が可能となったんですよ、それに少し賢明なものであれば、眠気覚ましとなる何かをしつつ夜の行動も可能になりましたし、フクロウ型と勘違いさせることもできるでしょ?それに一応、囮の対策も考えていますから、ご安心を」
それにお偉いさんがたも納得する表情を渋々作り、私の考えの賛同することになった。
その夜、例の林道に和解、女性警官が深めの帽子をかぶり、被害者が共通してきていた学校の制服を着せ、歩かせた。
予想通り、襲われ、対処として、制服の下に仕込ませたボタン一つでかなり大きい音だけをまき散らし、人体に何一つ害のない特殊な爆竹を鳴らすことによって、鳥も鳥型の獣人も、そうでなくても嫌がる少し荒っぽい防犯ブザーを使い、その場の被害を最小限にし、記録した音声と映像を次の日に確認し、被害を受けた町の学生には二日間の間、送迎バスを用意し、被害ゼロの日と、犯人が警戒を解くまでの期間を設け、もしものことを考え、表向きには捜査を終了することにし、完全に警戒を解かせるように誘導した。
そして、私が想定する最終日である十一月四日の夜。
囮と同じように帽子を深くかぶり、例の学生服を着て、林道を歩いた。
そして、足元を注意深く監視し、あえて足元の枝を踏んだ途端、一種運、微かな「…ホー…」という音が聞こえ、静寂が訪れ、さらに散歩ほど歩いた瞬間、ゆらぁっと効果音が出るほど緩やかかつ、高速で影が降り、私の肩をつかんだ瞬間。
私は影に片方の掌を影の前に突き出し、もう片方の手に握ったスイッチを押した。
ビカッ!
超絶ともいえるほどの閃光と耳をつんざくほどのキィィィィンという超大音量かつ高音が辺りを包んだ。
実は私の掌には火薬を使用しない化学反応により単純な発光、発音が引き起こされるスタングレネードを仕込んでいた。
当然、私はスイッチを持っているだから、耳栓を装着し、光源からはきつく目を瞑り、顔をそらして被害を軽減、無力化を実行。
「ああああああああああっ!!??」
影は私の肩を突き飛ばすように放し転がった。
離された勢いで私は尻餅をついたがそれ以外は無傷で、すぐさま、私は影に関節技をかけて拘束。
手錠を嵌め、無線を繋げた直後、無線の先にいる捜査員たちに逮捕時刻を告げた。
予想通り、犯人はフクロウ型の獣人の少年だった。
動機は標的として狙っていた学校でいじめに遭い、それに対する復讐、らしい。
まぁ、動機からわかるように犯人は学生で五百年以上前からほとんど形を変えずに残る少年法が適用されて軽い罰で終わるのだろうが、その期間はしっかりと自分を見つめ直して欲しいばかりだ。
十一月六日、報酬は後日と言われ、手取りを貰えなかったことに落胆しつつ、担当の刑事が運転する車に揺られ、帰りの便に乗るべく空港へと移動している最中にこんなことを訊かれた。
「なんであの時、候補に挙がっていたツツドリ型を否定して、あの作戦を取ったんですか?」
それに私は手品の種明かしをするように答えた。
「映像でも、私の体験でも、ツツドリ特有の筒を叩くようなポポ、なんて鳴き声は聞こえませんでした。その代わりに微かにフクロウの雄特有のホーホーと言う鳴き声が聞こえたのが決め手でした。あと、作戦は割と単純なんですよ。フクロウは夜行性でして、強い光が結構苦手なんです。そして、被害者たちが語っていた枝を踏んだことが起点かもしれないという供述もあながち間違いではなく、フクロウって物音で獲物を察知する程度には耳がいいんですよ。だから、根本的には人間と同じでも、飛び抜けた感覚があるならそれを突いて被害を与え、捕まえやすくした。この作戦の要、というか逮捕の切り札になったのは彼がフクロウ型だったからなんですよ」
そう言うと、担当の刑事さんは興味深そうに頷いて、私に感謝を述べた。
正直、ツツドリ型であれば、今回の数倍てこずっていたのかもしれないと焦っていたのはここだけの話だ。
空港に着き、少し時間が余った私は折角だからとホッカイドウのラーメンをいただくことにし、そのとき食べた味噌ラーメンがとてもおいしかった。
それだけの話だ。
まぁ、今回の話はここで終わるが、私の仕事が少しわかっただろう。
これが獣人専門の探偵の仕事だ。
今度、どこかで会うかもしれないから、他の話はその時にしよう。
では、私は仕事があるのでね。
失礼するよ。
獣人専門探偵 小宮 みち木遊 @michikiyu
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