第9話 俺にドMは必要ない!
後日、今日も俺は挨拶がわりに彼女の机を蹴り飛ばすことにした。
「いたい…」
「しゃべんな!」
最高に気持ちが良かった。今まで散々人を虐めてきたが、ここまで虐めがいのある奴は恋華が初めてかもしれない。久しぶりに生きた心地がした。
「あっ…ごめんなさい」
「だからしゃべんなっつってんだろ!汚ねぇ!」
「…」
彼女は俯き、悲しそうな顔をした後、やがて黙り込んだ。この顔を見るために虐めているといっても過言ではない。
これで今日も不幸な人間を一人増やすことができた。俺はそんな事を快楽にすら感じてしまっていた。
そして、同時に俺に対する周りからの陰口が耳に入り込んできた。普通、こうゆう陰口の場合は被害者に同情するような内容が多く含まれているのだが、周りから聞こえてくるのは全て俺に対する皮肉だけだった。
「おめぇら!うるせぇぞ!耳障りだ!」
周りからの陰口は一瞬にして静まった。俺は不貞腐れた態度で椅子に座った。
しかし、不思議だ。何かは分からないが、彼女からは何か俺と同じものを感じた。
その後も、幾日も幾日も俺は挨拶がわりに彼女の机を蹴り飛ばし続けた。
ある日、俺の蹴った机の当たりどころが悪かったのか、彼女は久しぶりに痛いと発した。
「いたっ!」
いつからか彼女は机を蹴られることに慣れを覚え、何も反応を示さなくなった。さすがの俺も久しぶりの「いたっ!」という彼女の一声に驚きを隠しきれなかった。そこには、涙を流した彼女の姿があった。彼女は膝に大きな傷を負っていた。そして、彼女の声に一人の生徒がまたかと言わんばかりに振り向いた。
「きゃー!」
その生徒が大きな悲鳴を上げると、それと同時に周りの生徒も彼女の方を一斉に振り向いた。恐らく彼女の傷に気付いたのだろう。俺はすぐに職員室行きを覚悟した。しかし、呼び出しを食らうことが日常茶飯事であった俺には、大して思うことは無かった。むしろ呼び出しを食らうことが
「だ!大丈夫ですから!」
彼女はクラス全体に呼びかけるようにして大きな声で訴えた。クラス全体が静まり返った中、彼女は少しの間を置いて再び口を開いた。
「だから先生には…先生には怪我の事言わないでください!」
彼女は再び大きな声でクラス全体に響き渡るようにそう訴えかけた。
俺は腐りかけた目を大きく見開き彼女を凝視した。彼女はハンカチで自分の膝の怪我を抑え、痛みも必死に堪え、悟られないようにと平気な振りを演じていた。ここまで良い奴だとさすがの俺も心を…いや、以前にも一回こんな事が。と、見開いた目を戻した。
「えぇ。白花さんが良いっていうなら」
生徒はまるで理解できないかのように返答した。
「あ、あの。ごめんなさい。なんか面倒臭い事になってしまって…」
そう俺に言い残したあと彼女は予期せぬことを言い出した。
「あ、あの!できたらでいいので…な、仲良くしてくれませんか!?仲良く…」
なんだ、そんなことか。彼女の思考が全て偽りで、上辺だけのものなんてのはお見通しである。意図している事は大体こうだろう。表面上で仲良くなっておけば虐められる危険性が減り、ラフに接する事ができる。なんていう彼女の単純で明快な安易すぎる考えなんだろう。こんな見え透いた作意に俺が彼女の思惑通り乗っかるとでも思ったのだろうか。まあ、他に手段が有るかといわれると無いのかもしれないが。それが彼女なりの逃げ道だというのなら、単純すぎた。それまでである。俺の生きがいをそう簡単に潰されては困る。だからそんな彼女の依頼は無視し、俺はそれ以上に俺を庇った彼女に思うことがあった。
「あのさ!余計なことしてんじゃねぇよ。お前バカなんじゃねぇの!?人を庇ってる暇があったら自分を庇えよ!傷ついてく自分を自分で癒せねぇでどうすんだ!誰もお前なんて受け入れねぇし、庇いもしねぇ!自分の立場を考えてからそうゆうことはしろよ!」
俺は初めて女の子というものに激しく怒鳴った。そして、気づいた頃には全て言い終わっていた。因みにこれは全て俺の経験談だ。今まで生きてきて俺に同情してくれた人は惜しくも亡くしてしまったおばあちゃんとお父さんぐらいだった。俺は同情されないその寂しさを知っている。だから彼女の苦しみや辛みなんてものは痛いほど分かるのだ。
言っておくが、自分と似たところについ自分を当てはめてしまっただけであって、彼女に同情した訳ではない。
自分の過去の悲しみを彼女に八つ当たりしてしまった用で、俺は酷く惨めな思いに追いやられた。
彼女は口を小さく開け、ぼそぼそと独り言かの如く話し始めた。
「優しいんですね…。やっぱり仲良くなりたいな…」
「あ?ハッキリしゃべれよ!鬱陶しい!」
「い、いえ!なんでもありません」
「うっざっ」
彼女はそこはかとなく照れた顔をしていた。
こいつはバカなのか?はたまたドMなのか?それにしても本当に虐めがいのないやつだ。虐めがいがあると感じたあの彼女は一体何だったのだろうか。
そして、本当に幻だったのではないかと思わされるほど、彼女は朗らかな笑顔を誇っていた。俺は取り敢えずそんな彼女を罵倒しておくことにした。
「気持ちわりぃ」
俺に「こんな」妹は必要ない! コヨミ @yonemaru
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