第6話 俺に再びデジャブは必要ない!

 大概は衝動にかられ、頭が真っ白になるほどパニックに陥るものなのだろう。実際僕もそうだった。だが、不幸という感情に敏感になっていた僕の身体は、以前と似た境遇に震えが止まらなくなっていた。


「お父さん?…冗談だよね?…ちょっと疲れてるだけだよね!?」


 僕は強くそう尋ねた。しかし、返答は無かった。

 もう同じ誤ちを繰り返さぬよう、急いで病院に電話をかけ、救急車の搬送を頼んだ。

 この時点で既に僕の精神は崩壊しつつあった。


「優牙…救急車を…呼んで、くれないか…」

「もう呼んだから!しっかりしてよ!」


 そう強く望んだ。もう二度とあんな後悔はしたくない。また大切な人を失ってしまうのだろうかと思うと意識がとうのいた。


 ピーポーピーポー…


 聞き馴染みのあるサイレンの迫り来る音は同時に僕の精神まで追い詰めた。


 ピンポーン…


 今となってはベルの陽気な音でさえも恐怖を感じてしまっていた。すぐに扉を開けるとすかさず救急隊員が家の中に乗り込んできた。


「大丈夫ですか?ゆっくり深呼吸してリラックスしてくださいね」


 救急隊員はそんなことを淡々とお父さんに語りかけていた。そんな事を言う暇があるのならば早くお父さんに処置を施して欲しい。そう思いながら見ていた。


「お父さんは大丈夫なの!?助かるの!?ねぇ!ねぇ!」


 知識も技術も無い僕にはこんなことを言うことぐらいしかできなかった。大切な人を失いたくない。その一心で必死に思いを伝えた。

 しかし、そんな思いは届くこと無く、お父さんは病院に搬送された。


 後日、僕はお父さんの病室に足を踏み入れた。入った瞬間、まるで呼吸をするかのように自然と涙がこぼれてきた。

 そこにいたのは人工呼吸器を付け、普段とは異なる萎れた腕に点滴ばりが刺さり、ベッドで横たわっているお父さんがいた。


「ねぇ。死んじゃうの?…また僕を置いて先にいっちゃうの?」


 もう散々だっ!


「お父さん言ったじゃん!お前にもう不幸は来ないって!お父さんの嘘つき!なんで僕ばかり不幸な目に合わなきゃダメなんだよ!もう辛いよ!……死にたいよ…」


 勢いに任せて思ったことを全て口に出してしまった。すると微かに目を開け、人工呼吸器越しの小さな声で話し始めた。


「お父さんは…嘘つきなんかじゃないぞ…。だって…」


 何か大切な事を言っているように感じたが、精神的に辛かった僕はお父さんの言った事を理解しようとはしなかった。

 僕が帰ろうと病室の扉を開けると、人工呼吸器越しではあったが、はっきりとした声で僕の名前を呼んだ。


「優牙。また来てくれるよな?」


 僕は返答しないままお父さんの病室を去った。

 それから僕がお父さんに会いに行くことは無かった。元気のない、笑顔もない、お父さんを見ているのが辛かった。

 また僕を残して死んでいくんだろうな…


 お父さんが入院している間、僕はおじさんに面倒をみて貰うことになった。


 そして春休みが開け、登校初日。


「ゆーがー、春休みの宿題やったかー?」


 話しかけてきたのは怪我を負わせてしまった彼だった。


「は?うるさい。消えろ。」

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