西遊記一行が何故出てくるのか不思議でたまりません

 扉をくぐったハルの目に飛び込んできたのは、広大な緑の大自然だった。


 そして、自分を不思議そうに見つめる三人が目の前に立っていた。


 その内の一人が口を開く。


 「オッス、オラ沙悟浄。今、どーやって出てきた?もしかしてオメェ強ぇんか?」


 「……………」


 (ん?ん?ん?ん?何何何何?え、何これ?色々まずくないですか?)


 「ウチも戦いたいんだな」


 そんな考えを他所に、猪八戒と呼ばれた丸い女性が、横から身を乗り出すと、


 「待ちたまえ。ここは私がやろうではないか」


 悟空と呼ばれるモノクルをかけた男が、猪八戒の肩を掴みさらに前へ出る。


 「ちょっと悟空!あんたは出しゃばらないでよね」


 「そうだぞ!こいつはオラの相手だ」


 三人で、ハルと誰が戦うのかの言い争いをしていると、その後ろで、ずっと木にもたれ寝ていた男が突然声を張り上げた。


 「お前らうるさい。黙れ」


 三人は身体をビクッと反応させ、急に大人しくなる。


 「げ、玄奘殿。落ち着いてくだされ」


 玄奘は宥めようと近づく悟空の手を、バッと払った。


 「るっせ、猿。俺の眠りを妨げる奴は許さん。おい、嬢ちゃん。何の用があってここに来た?返答次第じゃわかってんだろうな」


 「い、いや……なんの用って。私はただ元の世界に帰ろうと……」


 「元の世界?」


 ハルの言葉に玄奘がピクッと反応する。


 「どっからきた?」


 「どっからと言われると難しいですけど。今はタナト・シリアと呼ばれるところからで、元々は人間界?です」


 「タナト・シリア……」


 「ご存知なんですか?」


 「ああ、昔ちょっとな。で、一応ここも人間界ではあるんだが、どうやらあんたの言う人間界とは少し違いそうだな」


 「はい……。私の世界であなた方は、物語のキャラクターとして存在してます。ちょっと知ってる物と違う感じはありますけど」


 「なるほどな」


 玄奘が何かを考えていると、沙悟浄が、痺れを切らしたかのように震えだした。


 「異世界人と戦えるなんてオラワクワクすっぞ。はやく闘おう!来ねぇならオラから行くぞ!」


 そう叫んで沙悟浄が飛び出した瞬間、同時に二つの事が起きた。


 ひとつは玄奘が立ち上がり、沙悟浄の名を叫ぶと、沙悟浄より速いスピードで、ハルとの間に割って入った。


 もうひとつは、ハルの後ろに突然扉が現れ、サクがドロップキックでその扉を蹴破って飛び出してきた。


 玄奘は飛び出して来たサクに気がつき、蹴りを避ける。


 それによってサクのドロップキックは沙悟浄の顔面にヒットした。


 ブチッと嫌な音がし、沙悟浄は鼻血を噴き出しながら後ろへ吹き飛んだ。


 「大丈夫か!?」


 悟空と猪八戒が沙悟浄の元へ駆け寄る。


 「なんだ貴様!?突然現れて、こんな事をしてただで済むと思っているのか」


 悟空が次は自分の番だと立ち上がる。


 「やめろ悟空。ここはオラがやる。今の蹴りだけでわかったぞ。オメェめちゃくちゃ強ぇな。オラワクワクすっ____」「すんなボケ!おいハル、何だこの設定めちゃくちゃな奴……ら」


 サクは後ろにいたハルの方を振り向くと、サクとハルの間にいた人物を見て目を丸くした。


 「江流?」


 サクの言葉に玄奘は首を振る。


 「やめろ、それは昔の名だ。今は玄奘

、もしくは三蔵法師と呼ばれている」


 「玄…奘。まあ名前なんかなんでもいいや。お前何してんだよ」


 「それはこっちのセリフだサク。お前こそ何してる」


 「いや、俺は……」


 サクは玄奘の後ろのハルに目をやる。


 「なるほどな。お前の連れか。この嬢ちゃんからタナト・シリアの名を聞いてちょうど、お前を思い出していたところだ」


 サクと玄奘はどうやら知り合いのようだ。


 「昔話に花を咲かせたいところだが、お前ウチの若いのに火をつけちまったみてぇだな」


 「ん?」


 サクが後ろを振り向くと、先程蹴飛ばした沙悟浄が起き上がり、こちらに闘争心を剥き出しにしていた。


 「いや、あれはハルが襲われそうだったからさ。な?すまん」


 サクは手を合わせ軽い調子で頭を下げる。


 「別に怒ってはねぇ。けど、このままじゃ納得もいかねぇ」


 沙悟浄は玄奘の様子を伺いながら話をしていた。


 それに気がついた玄奘も、


「こいつなら本気でやっても良いぞ。なんなら刀も抜け」と、沙悟浄に戦闘を促した。


 「法師様がそう言うなんて、オメェ相当強ぇんだな」


 沙悟浄は言われた通り、腰に据えていた刀に手を置いた。


 「おい、江……じゃなかった。玄奘こいつなんなんだよ」


 「そいつらは、俺のボディガードだ。そこそこやるから、油断してるとやられるぞ」


 「へっ、お前が連れてんだ。油断なんかするかよ。でもいいぞ。お前ら三人でかかって来い」


 「あいつウチらのことなめてるんだな」


 「どうやらそのようですね」


 「いくぞ!」


 沙悟浄、猪八戒、孫悟空の三人では一斉にサクに飛びかかった。


 まず猪八戒が少し前に飛び出し、飛び上がると、元々巨大だった身体が何倍にも膨れ上がった。


 その巨体でサクを押し潰そうとするが、サクは回し蹴りで、いとも容易く猪八戒の巨体を吹き飛ばす。


 と、その隙をつくように巨体に隠れていた二人が両脇から襲いかかる。


 悟空は頭についていたリングを外すと、サクへ投げる。リングは大きくなりサクの両腕を体に縛った。


 「おいおい、それ外せんのかよ」


 依然、サクに焦りは見えない。


 「伸びろ#如意刀__にょいとう__#!」


 沙悟浄の号令で、某漫画の刺青男のように、刀がうねりだし、波打つようにサクにめがけて伸びる。


 「掛け声、吠えろの方がいいんじゃねぇか?」


 皮肉を言いながらもサクは、如意刀の初撃を体を反らせ避けると、刀身を片足で上へと蹴り上げた。同時に体を固定していたリングを気合で弾け飛ばす。


 「私の#緊箍児__きんこじ__#を容易く……」


 破壊された緊箍児は、悟空の頭に再生するかのように再びはまった。


 「悪いがお前らじゃまだ、俺には勝てねぇよ。玄奘にもっと鍛えてもらえ」


 その言葉を聞いたが最後、沙悟浄と孫悟空は気がつくと、地面に仰向けに倒れていた。


 「なっ?!」


 二人は何が起きたか全く理解できていない。痛みもなく、ただ倒れているという事実だけ知る。


 「相変わらずだなサク。もーちょっと手を抜いてやれ」


 玄奘がサクに拍手をしながら、三人のお供の元へ寄る。


 「お前ら、しばらくトレーニング三倍な」


 「そ、そんなぁ」


 三人は口を揃えてうなだれた。


 「さあ、どーする?流れ的には、お供がやられて、真打ち登場って形で俺とやることになるが」


 玄奘は懐から、お札の様なものを取り出し構える。


 「やめとくわ。お前とやると長引くし。今は、あんま力使ってらんねえからな」


 「なんだ。それは残念だな」


 フッと笑いながら玄奘は札を仕舞う。


 「まあ、またやろうや」


 「そうだな」


 サクはハルの元へ寄り、「行くぞ」と声をかけるとハルから鍵を受け取った。


 「その鍵でこっちの世界へ来たのか?」


 玄奘が鍵を見て声をかける。


 「ああ、そうだ」


 「ちょっと貸してくれないか?」


 「ん?ほれ」


 サクが投げた鍵を受け取ると、玄奘はまた札を取り出し、その札に鍵を乗せた。すると、札が光り出し何やら文字が刻まれる。


 「ほらよ。そっちの世界には不思議な力があるもんだな」


 玄奘の投げた鍵をキャッチしながらサクは渋い顔をし、「お前に言われたかねぇよ」と、小さく呟いた。


 「じゃあな」


 玄奘の言葉にサクも手を挙げて返す。


 「よし、帰…………あれ?ねぇ!扉をがねぇ!近くに他の扉……あるわけねぇ!めちゃくちゃ大自然のど真ん中じゃ!」

 

 サクが、こちらの世界に来た時に現れた扉がいつのまにか消えていた。


 「なんだ扉がないと帰れないのか?」


 玄奘が少し小馬鹿にした様に質問する。


 「この鍵はな扉に力が働くんだよ!」


 「なるほどな」


 苛立っているサクに玄奘は冷静に考え始めた。


 サクの鍵についての説明を聞き、玄奘は孫悟空を手招きする。


 「そら悟空。扉に#なって__・__#やれ」


 「扉になる?」


 サクが首をかしげるのを横目に、悟空がハッと気合を込めるとボンッと煙が立ち込め、そこに扉が現れた。いや、悟空がある扉に変化した。


 「まじかよ」


 サクは興味深そうに扉を観察した後、おそるおそる扉に鍵を当て、頭のスイッチを押し捻る。


 「どうだ?それじゃ無理か?」


 「行けそうだな……じゃ、今度こそ」


 サクが扉を開けると、後ろから沙悟浄が声を掛けた。


 「またオラと闘ってくれるか?」


 「ああ、またな。お前ら天竺目指すのやめて龍の球でも集めれば?」


 「?」


 サクは、その場でサクとハルだけが理解した言葉を残して、二人はタナト・シリアへと戻った。

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