転移の鍵って名前ダサくないですか?

 サクとハルが東京から戻って暫くすると、キジーも同じ場所に戻ってきた。


 「おいコラ鍵爺。どーいうことか説明しやがれ」


 「どういう事と言われてもじゃな。あの二人が突然現れて、いきなり襲ってきたんじゃから説明もクソもないわい」


 「危うくこっちは死ぬとこだったんだぞ。だいたい鍵庫なんて大事な場所に簡単に侵入される事が問題だろ。管理体制ガバガバじゃねぇか」


 「やかましいわ!だいたいここは、ワシの鍵でワシにしか開けられんようになっとる。万全のセキュリティじゃ。それをあやつら……」


 確かにサクも昔、そう聞かされていたことを思い出す。だからこそサクもこの部屋に入るのは初めてなのだ。


 そして自分が、この部屋に入った時のことを思い出す。あの時は焦りで考えが及ばなかったが、この部屋の扉を蹴破って入った。それこそが問題なのだ。


 「それで、何を取られた?まさか……俺の……」


 「そうじゃと言ったらどうする?」

「殺す」「じゃあ、違う」「ふざけんな!」


 「安心しろ。本当に違う。あれは別の場所じゃ」


 「ややこしいやりとりすんなよ!」

 

 「何を持っていかれたか、ワシにも分からんのじゃ」


 チッとサクが大きく舌打ちをする。


 「それより……この#女子__おなご__#は誰じゃ?なかなか可愛いのう」


 キジーがハルの元へ寄り、指をクネクネとうねらせながら、ハルに触れようとしていた。


 「え、ちょ、ちょっと!」


 ハルがたじろぎ後ずさると、サクがキジーの頭を後ろからゴンッと殴った。


 「ふざけんなこのエロジジイ!」


 キジーの頭には大きなコブが出来上がっていた。


 「痛いな!ええじゃろちょっとくらい。あんな怖い思いしたんじゃから」


 「テメェのせいだろうが」


 二人は、そんないがみ合いをしばらく続けた後、サクはハルの境遇とここに来た理由を説明した。


 「なるほどの。転移の鍵を求めて来たか。しかし残念じゃったな……」


 キジーは凛々しい顔つきになり言葉を貯めた。


 「鍵はここには_______無い!」「だろうな!ふざけんな!なんだ今の貯め腹立つ!」


 「フフッ」


 ハルが二人を見て思わず吹き出した。


 「ごめんごめん。なんか、二人のやりとり見てたら、おかしくなっちゃって」


 サクとキジーは、お互いに目を合わせ大きく溜息をついた。


 「まぁ、なんじゃ。茶でも飲むか」


 三人は鍵庫を出て、部屋でテーブルを囲んで話を始めた。


 「焦げ臭いな」


 「そこは我慢せえ。で、肝心の鍵の話じゃが、あのちっこい少女の爆発の前に、強制転送されて世界中に散り散りになったわい」


 「強制転送?」


 「もし、ここの鍵全てを手に入れるなんて事になったら、とんでもない力を得れるからな。ああいう事態が起きた時、それぞれ別の場所に鍵が転送されるようになってるんじゃ」


 「じゃあ、どうやって転移の鍵を探すんだよ」


 「そこは安心せぇ」


 そう言うとキジーは、戸棚から手の平サイズの四角い機械を手渡して来た。


 「なんだこれ?」


 「そいつはな、鍵レーダーと言ってな。世界中に散った鍵の場所を指し示す物じゃ」


 「なんか七つ集めると、いいことありそうだな。てか、このレーダーに描きの反応ねぇぞ」


 レーダーは一面真っ黄色で、鍵の場所らしき反応はない。


 「何を言っておる。ビンビンじゃないか。ちょっと倍率を変えてみろ」


 そう言われて、レーダーの上のツマミを少し捻ると、少しずつ緑色の部分が現れ、それが世界地図の形をしている事に気がついた。


 「おいおい、まさかこれ黄色の部分が鍵か?」


 「そうじゃ」


 「ふざけんな!一体いくつあんだよ」


 「数千……いや数万かな?」


 (嘘だろ?こん中から目的の一本を探せってか?)


 「まぁ、そう焦るんじゃない。こちらでも回収班を雇う予定じゃ。時期に数は一気に減るわい」


 「もし、そっちで見つかっても、すまねぇが貰ってくぞ」


 「かまわんよ。ハルちゃんのためじゃからな」


 そう言ってキジーは、ハルに近づこうとしてまたサクに殴られた。


 (まったく。此奴、年寄りを労わる気持ちを、もうちと持った方ががいいんじゃないか?)


 そんなことを思いながら睨みつけるキジーを、サクはさらに鋭い眼光で睨み返す。


 それからも、サクとキジーは事あるごとに言い争いをし、二人とも疲れたのかサクが席を立つとキジーもテーブルを片付け始めた。


 「じゃ帰るか」


 そう言うと、大した挨拶も無しにサクは出て行ってしまった。


 「ちょっとサク!あ、ありがとうございました。では、また」


 深々とお辞儀をするハルに、キジーはゆっくりと近づくと耳元でささやいた。


 「アイ____ラブ_____ユー」


 (え?)


 全身の毛が一気に逆立つ。


 「アッハッハ。冗談じゃよ。あやつの事好きか?」


 「あ、あ、あやつって」


 「サクじゃよ」


 「すすすす好きって……そーいうんじゃ……無いと思います」


 「そうか、ならいいんじゃが。あまり奴に深く関わらん事じゃ」


 「え?それってどういう_____」「ほれ、急がんと一人で帰ってしまうぞ」


 後ろを振り向くと、サクは待つ気配もなく一人で歩いて行ってしまっている。


 「ちょっと待ってよサク!」


 ハルは失礼しますとキジーに頭を下げ、サクの元へ駆け寄った。





 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 



 二人はウォーレンに戻って来ていた。相変わらずここの市場は活気立っている。


 「さて、今日は疲れたからな。描き探しは明日から始めるか」


 その意見には、ハルも賛成だった。



 ここから二人の鍵を探す冒険が始ま_______



 「あ!」


 ハルが突然大きな声を上げる。


 「おいなんだよ。今いい感じに次へ繋ごうとしてたろ」


 「いや、でもこれ」


 ハルがポケットからレーダーを取り出すと、ピコーンピコーンと音が鳴っていた。


 「ねぇサク、これって」


 反応している。レーダーがすぐ近くに鍵があると伝えていた。


 二人は辺りを見渡すと、一つの屋台の景品にそれらしき鍵があった。


 「おい、それなんだ?」


 サクが店主に不躾に質問をする。


 店主は鍵を手に取り「こんなものあったかな?」と首を傾げたが、


 「欲しいのならゲームに挑戦しな」


 と、言ってきた。


 「なに、簡単な的当てさ。このボールを投げて、並べてある箱を倒せたらこん中から好きな景品を持って帰れる。もちろんこの鍵でもいいぞ。一回500ユンで三球だ。やるか?」


 ちょっと面白そうだなとハルは思ったので、とりあえず一回やってみる事にした。


 「ちゃんと当てろよ」


 後ろからサクが茶々を入れてくる。


 「よーし。えいっ」


 ハルの投げたボールは窓を大きく外れた。


 次に投げた球は、箱を掠めたが倒せるまでには至らず。


 「ラスト……。うりゃぁぁぁ」


 気合を込めて投げたラスト一球は、見事箱に命中……したが箱は少しグラついたが、倒れはしなかった。


 「残念!お嬢ちゃんもうちょっと肩鍛えた方がいいよ。あと少し強く投げれてたら絶対倒れてたもん今の。どうする?もっかいやる?」


 「どけ。今度は俺がやる」


 後ろからサクがハルの肩を掴み、前へ出る。


 「お!いいねぇ!じゃあ500ユンね」


 店主は金を受け取ると何やらポケットをゴソゴソと探り始めた。


 微かにカチッという音が聞こえた気がする。


 「さあ、どうぞ」


 サクが軽くボールを投げると一発で箱に当たった。箱は今にも倒れるという所まで傾いたが不自然に元の位置へ戻ってきた。


 「なるほどな」


 サクが今度は腕をブンブンと回し始めた。気合は充分のようだ。


 「せーのっ」


 _____ブンッ


 サクの投げた球は誰の目にも止まらず、箱どころか屋台もろとも吹き飛ばしていった。


 後から遅れて風が吹き荒れる。


 「あ、ああ……あ」


 店主は膝をガクガクさせながらその場にへたり込んだ。


 「じゃ貰ってくぞ」


 サクは鍵を手に取り、ハルは一応謝罪した上で二人は家へと帰った。

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