フクロウとの絆

さばりん

幼馴染と、とある日の話

 ある日、いつものように俺の家に泊りに来ていた幼馴染の春香はるかが唐突に俺を誘ってきた。


「フクロウカフェ?」

「そう、ここにあるフクロウカフェにめっちゃ行きたいの!カップルで入場のお客様は半額キャンペーンが今週末までで、どうしても行きたいの!ねぇ、お願い。こんなこと頼めるの大地だいちしかいないの。」


 机の上においてあるパンフレットを指さしながら、頭を下げている春香の必死さを見て、俺は根負けした。


「はぁ、わかったよ。一緒に行けばいいんだろ行けば。」

「本当に!?」

「あぁ、その代わり、俺はフクロウには触らないからな。」

「あーもしかして怖いんだ~」


 ニヤニヤとしながら春香が疑いの目を向けてくる。


「そんなこと言うと、行ってやらないぞ。」

「あ、うそうそ、ごめんってば!」

「はぁ~しょうがねぇな…」


 こうして俺は春香の彼氏という設定で、一緒にフクロウカフェに行くことになったのであった。



 ◇



 日曜日、俺と春香はフクロウカフェへと足を運んでいた。

 店内に入ると、木の枝に乗って鋭い目つきで睨みつけているフクロウ達が俺たちを出迎えた。


「うわぁぁ…かわいい…///」


 正直俺は、フクロウの良さが全く理解が出来なかった。不気味だし、結構デカイし、何考えてるのかわからなくて怖いし、それでもって肉食であり、ネズミなどを捕食して食べるという、なんともおぞましい生き物にしか見えていないのである。


 そんなことを思っている隣で、春香は目をキラキラさせながらフクロウ達を羨望の眼差して見つめていた。

 俺はその隣で苦笑いを浮かべながら店の奥へと進んでいった。


  フクロウカフェのフクロウはみんな人懐っこく。簡単に撫でることが出来た。

 春香はずっと幸せそうな表情で店員さんにフクロウを肩に乗せてもらい、ポンポンと頭を撫でていた。



「はぁ、ヤバイ一生ここにいれる。」

「それはよかったな。」

「折角だし大地も触ってみなよ。」

「俺は触らないってっ」

「いいからいいから!」

 

 話をさえぎって、春香は肩に乗っているフクロウを、俺の方へ近づけてきた。

 フクロウはムクっと俺の方へ首を曲げて顔を向けた。

 俺は生唾を飲みこみ、恐る恐る手を伸ばした。

 すると、そのフクロウはヒョイっと俺の手の上を通り過ぎて、飼育係のお姉さんの腕へ飛んでいってしまった。


「…」

「やーい、フクロウに嫌われてやんの。」

「うるせ。」


 俺は、ふいっとそっぽを向いて春香から目を逸らした。

 折角触ってやろうって気になったってのに、可愛くない奴め…

 俺が先ほどのフクロウに目をやると、気持ちよさそうに目を閉じて飼育員のお姉さんに撫でられていた。


 すると、店内の別の場所から「キャー」っという声が聞こえた。

 声の方へ振り返ると、急に一羽のフクロウが暴れだし、店内をものすごいスピードで飛んでいたのだ。

 そして、そのフクロウは一直線に俺たちの方へ向かって来ていた。


 俺と春香は慌ててテーブルの下に身をかがめる。


 暴れたフクロウは、俺たちの頭上ギリギリと滑空していく。そして、近くにあった春香が飲んでいたグラスにフクロウの足が触れた。


「危ない!」


 グラスが春香の元へ落ちていくのを見て、俺は一目散に春香を庇う。

 そして、春香に覆いかぶさり、落ちてきたグラスを背中で受け止めた。

 ビシャっという音と共に背中全体にビクっと震えるような冷たい水の感触とゴツゴツした痛い氷が俺に降り注いだ。

 そして、俺の背中でワンバウンドしたグラスはそのまま俺の後ろでパーリーンという音と共に砕け散った。


「大地…大丈夫?」


 不安そうに怯えた声で春香が聞いてきた。


「うん、平気。」


 俺は春香の顔を見てニコっと笑ってみせた。


 しかし、それもつかの間、暴れたフクロウがグラスの音でまたさらにパニックに陥り、俺たちの方へ猛突進してきたのだ。

 俺はとっさに再び春香を抱き寄せ身をかがめる。


 ぶつかる。


 そう思った時だった。

 

 ドンっという音と共に羽音が響き渡った。

 顔を上げると、そこには先ほど春香の肩に乗っていたフクロウが暴走したフクロウを止めにかかったのであった。

 

 二羽のフクロウはそのままベタっと地面に落ちていった。


 しばしの沈黙の後、事態を把握した 飼育員が慌てて二羽のフクロウの元へ向かう。


「お客様大丈夫ですか?」


 と俺と春香に店員さんが声を掛けてきた。


「あぁ、はい、大丈夫です。」

「今すぐに拭くものをお持ちいたしますね。」

 

 店員さんが慌ててキッチンへと向かう。


 すると、今度は「おお!」という歓声が沸いた。

 歓声の方へ顔を向けると、そこには一羽の先ほどの勇敢なフクロウが飛び立ち、俺たちの方へ飛んできていた。


 俺はとっさに右手を木の枝のように伸ばした。

 それを待っていたかのようにフクロウは、俺の腕へと着地した。

 フクロウが腕に着地して俺が一息つくと、お店から拍手が巻き起こる。


「ブラボー」

「よくやったぞ少年!」

「フクロウ君もカッコよかったよ。」


 俺とそのフクロウは一瞬にしてお店中のヒーローとなり、祝福を受ける。

 俺はフクロウに目をやった、すると勇敢なそのフクロウはクルっと俺の方を向いて。クリっとした目をキラリと片目だけを閉じてウインクをして「よくやったな!」と言ったような気がしたのであった。

 その光景を見て、俺は微笑み返し左手でポンポンとフクロウを撫でてやったのであった。



 ◇



 夕焼け空の中、俺と春香はフクロウカフェを後にして、駅へと歩いていた。


「今日はごめんね、無理に誘って。」

「ん?いや、いいって。」

「でも、あんなことになって大地に迷惑かけちゃったし。」

「あれはフクロウが突然暴れちゃったのが原因で事故みたいなもんだよ。別に春香は悪くないさ。」

「うん…」


 春香は申し訳なさそうにシュンとなっていた。


「春香。」

「何?」


 俯いていた春香が俺の方をチラっと見た。そして、俺は満面の笑みで春香にチケットを見せながら言った。


「また、一緒に行こうな。フクロウカフェ!」


 そこには今回のお詫びとしてもらったフクロウカフェのパスポート券とドリンクお食事無料サービス券があった。


 春香はそんな俺の表情をみて安心したのか一度目を瞑った後、ニコっと口角を上げ、


「うん。そうだね。」


 と答えたのだった。


 俺は優しくそんな春香に微笑み返した。


「帰ろっか」

「うん!」


 俺は再びアパートへ向かって歩き出す。


「ねぇ、大地!」

「ん?」


 春香に呼び止められて、振り向く。


 春香は頬を染めながら恥ずかしそうにしながら、


「今日は助けてくれてありがと。それと、今日も泊まっていっていい?」


 そう言ってきた春香に対し、俺は微笑み返して、


「どうしたしまして。いいぞ泊まってけ。」


 といい返したのであった。

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