第3話 名もなき力

「直感でトランプを引き当てる」ことの何が力なのだ?

そう思った人は多いと思う。「力」とは本来、何かを成し遂げるために役に立つから「力」なのだ。だとすれば俺のそれは、まだ力とは到底呼べない、名もなき力だったのである。

俺は5枚のトランプだけでなく、トランプカード全てを使い引き当てをし始めた。ハートのAではなく、joker2枚の引き当てだ。Aが1なのに対して、jokerはトランプカードの中で、明らかに異質な存在だから、引き当てることが出来ると、ハートのAよりも何となく意味を見出すことができた。

俺は54枚のカードをテーブルに雑にばら撒いては、適当に2枚返してみる。何も考えなくても、いつもそれはjokerなのだ。

俺はこれを、「呼びよせる能力」だと思った。自分に選択(くじ引きや抽選であったとしても)が委ねられているものなら、少しでもそれを求めれば、呼び寄せられる。

そうすると、席替えのことも説明がつく。

クモを動かしたのは、テレパシー だと思う。その後も母親とトランプ当てをすることがあったが、母親の頭上から煩いノイズとともにカードの柄が脳裏をちらつくことがよく起こった。「このカード、クローバーの2って思ったろ?」と言うと、驚いて「なんでわかるのよ」と返される。

まぁしかし、親子2人で狐にでも化かされている気持ちだが。他のことも、都合よく解釈すればこの「呼びよせる力」と関係しているようであった。

俺は、呼びよせる力を「力」として行使したいと思った。それで、部屋のクローゼットから、中学の教科書にうずもれたタロットカードを拾い上げた。(どんな情景描写だと思うかもしれないが書き方の通りで、俺の部屋は汚いのである)やり方さえ知れば、タロットカードは誰にでも出来る占いだが、展開の際に正しいカードを引き当てるだけでなく、一枚のカードになかなか多様な意味を持つため、正しいキーワードを選び、質問の答えになるストーリーを作り上げなければならない。俺の呼びよせる力があれば、正しいカードを引き当て、正しいキーワードを選び、占いたい質問に対しての答えを呼び出せるのではないかと思った。

すぐに俺はInstagramのストーリーで質問を募集してみた。占いみたいなものは、確証がない部類だから受け入れない人間も多い。だが俺は今までとは違い一つの証拠を得ていたからか、そんなことを募集する自分に対して恥ずかしさはかけらも無く、むしろ自信があった。

俺は暗くもなくパリピでもないためか、昔からいろんなタイプの人間に関わりを持たれていた。知らない人からも、話しかけやすいようだったし、誰でも受け入れる性格なのは事実だった。相談を持ちかけるにはもってこいの人間だった。

そのため、この占いの募集にも5分足らずでやってほしい人が現れた。初めの相談者は昔の腐れ縁みたいなやつで、俺に巧妙な嫌がらせをしてくるような人間だったので、意味が分からなかったが、俺は寛大な心の持ち主だから、簡単に年齢と質問内容に関するやり取りを済ませて、カードをきった。

俺はこの通り、文字を打つのも好きだから、タロットのスプレッドもなかなか細かい分析が出来そうな(イエスノーだけで片付かないような)展開方法を選び、質問に関しての過去から現在、未来や周囲の状況、心の中の本当の願望や、良い方向に導くための対応策まで提示した。1000字近くの占い結果をInstagramのdmに流し込むと、また新たな依頼がいくつも届いていた。俺はやることを残したくない性分だったから、焦りやめんどくさい気持ちを押し殺し、穏やかな心をつくって何度もやり取りし、カードを切ることを繰り返した。

とりあえず依頼が来た全員分の結果を送り終えるともう夜も更け、初めの依頼者からdmに返信が来ていた。

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名もなき力をもつワレラ adtoigr @i9aqkf

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