混沌使いの使い方。番外編。

人喰いウサギ

梟 の女神。


女神様の、燃え盛る蒼い瞳が 近寄って来て…。


…そして、いつも そこで夢は途切れる。



「………………ハアアァ」

夢から覚めると、丸くて眩しい お日様が 昇っている。


今日もまた、夢にまで見てしまった。



朝のジョギングに出掛ける為、家を出る。


アタイの名は、α+アルファプラス



何か、変な名前だと 兄さんや妹達に よく揶揄からかわれる。


真っ黒な髪質の 双子の兄や妹達と違って、アタイの髪色が暗い灰色で珍しかったからだと母からは聞かされている。



まあ。


以前は気にしていたけど、今は全然気にならない。



息遣いが 段々と浅くなって来る。


あの綺麗な瞳に見詰められる事を想うと、ドキドキの鼓動も果てしなく加速しそうになる。

鼓動を誤魔化すように、自慢の健脚を更に速める。



今朝も 出会えるだろうか。



妹達と兄は アタイのジョギングを、変わった趣味だと言う。


愛する家族だからこその心配とは言え、個人の趣味に口出しされるのは 良い気はしないけど。



アタイは、お日様の光が燦々と降り注ぐ 家の周りの森を抜け 街に出て、誰にも見付からないよう 足音を立てず、屋根伝いに目的地を目指す。


程なく到着したが、先客がいる。



「……フウ。また来ていたのですか? 貴方は」


息を整えながら アタイは、少し辛辣な感じに先客の少年に問う。



ストーカー…。


…5年ほど前から 行く先々に出没しては、アタイの後ろに付いて来るようになった何歳か年上の少年。


勿論、お目当ての相手ではない。



「行きます」


「はい……」



いつものように 巨大な立看板を見ながら自らに告げると、やはり いつものように少年は 頼んでもいない 無愛想な相槌を返して来た。



『西方大陸冒険者組合 天道連合皇国支部 特別委託管理遺跡:旧帝立遊撃軍練兵院 独立混成分隊訓練場あと


そう名打たれた看板…。



…その横の扉から、アタイらは 静かに入る。


受付や警備の人々に見付からないように……。



世界有数の広大さと、最高峰の強力な妖物ばけものらがひしめく大迷宮。


誰が命名したのか、いつからか〈嵐塞郷〉と呼ばれる 古代からの遺跡。



アタイは、ここでのカクレンボ が大好きだった。


多くの妖物らに気配さえ察知されずに 危険な迷宮を潜る、このスリルが堪らない。



潜る、隠れる。

隠れては 歩を進め、また 潜る。


ストーカー少年も それに倣い、沈黙したまま ひたすら付いて来る。




隠れて 潜って、最下層の地下50階層。



何の遮蔽物も無い、広大な空間が広がっている…。



…闇に紛れて端の方が 全く見えない程 恐ろしく広く、100m以上はある 高い天井を見上げつつ 壁面に沿って螺旋状の階段を降りながら、アタイは…。


女神リリスよ…。…お召に従い、来ましたよ」


…ただ 独り言ちる。



階段を降り切ると、空間の中央にわだかまる 巨大な闇が 正面に見える。


アタイは、その闇に近付いて往く。



それは動かない。


偶像のように。



しかし、ソレはただの巨大な石像ではなかった。


その証拠に 不自然な空気の流れが、風が生じ始める。



風は、石像に走る亀裂の隙間から噴き出していた。


烈風と化した風圧によって 被膜のように薄い石片が、大量に舞い散る。



ソレは〈よいあらし〉とも称される 非常に古い……風の女神。


気付けば、彼女の蒼い瞳に見降ろされていた。



ストーカー少年は……階段の所に控え、ジッとアタイを見詰めている。



『……来たか、御子よ。懲りもせず』


彼女の声が、頭の中に響く。


意外にも優しく、必要以上に蠱惑的で 魅力的な声。



来る。


アタイは、既に臨戦態勢にある 家宝の脇差わきざしの蒼い刃を見定めてから、逆手に構える。



雌型獣王神スフィンクス…。


…肉体的には そんな様相を呈する美しい女性の顔をした女神が、蒼い瞳をたぎらせながら近寄って来る。


そして、いつものように そこで彼女との|梟女神リリスとの密会の夢は途切れ、

いつものようにアタイは、



家のベッドで 目覚めるのだ……。

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