フクロウ英雄伝説

藤ノ宮コウジ

第1話

 ストリックスと呼ばれるこの都市を上空か見下ろすとハート型に見える。フクロウの顔を思わせる様な形。

 この都市には、酒場、宿、教会などがあり不自由なく暮らす事が出来る。定期市が開かれると、一気に賑やかになりより活気あふれる都市まちになるのだ。

 しかし、普通なように見えるこの都市を統治する者、すなわち、王の座に君臨する者は、人間でもなく、百獣の王ライオンでもない。

 ハート型の顔にまん丸い目が特徴的なフクロウだ。

 そうここは人間が支配する側ではなく、支配される側なのだ。

 フクロウが人間を支配できはずが無いと思うだろう。

 人間は長い年月をかけて進化しこの世界を支配したかのように見えた。だが、進化したのは人間だけではない。色々な動物達が進化をしてきた。そのなかでもフクロウは独自の進化を遂げた。なんといっても、人間以外の動物との違いは知能レベルの高さだろう。今となっては、既に人知を越えている。

 今までフクロウと人間は戦争を繰り返してきた。常識では考えられない動物と人類の戦い、種族を越えた戦争。

 全世界を巻き込み約半年に及ぶこの戦争に勝利したのはフクロウだった。

 新たな支配者はフクロウになったのだ。

 支配者が替われば反乱は必然的に起こる。しかし、戦争が終結して既に2世紀という年月が経ったせいか、各地で起こっていた反乱は無くなった。今となっては平和な日々が続いている。なかでもその平和さを象徴する都市がストリックスだ。

 その平和が脅かされたのはある日の事だった。


 ストリックスはいつも通り平和で活気あふれる都市だった。

 突如、この都市に警報が鳴り響く。住人は何事か、と音源の方へ一斉に振り向いた。その音源は都市の中央にそびえ立つ全長200メートルの時計台。非常時には警報が鳴る仕組みにもなっている。

 警報に続いてアナウンスが流れた。

 『外にいる皆様は直ちに安全な建物に避難し、全ての扉と窓を閉めてください。繰り返します。外にいる皆様は直ちに安全な建物に避難し、全ての扉と窓を閉めてください』

 その知らせを聴くと同時に住人はパニックになったが、指示通り建物に避難した。

 避難は完了したが詳細を聞かされていないため、住人には不安が募るばかりだ。

 そのとき、宮中ではフクロウ達が臨時の会議を開いていた。円卓には国王やその側近達が冷汗をかきながら慎重に会議を進めている。

 補足だが勿論もちろん、国王やその側近もフクロウだ。

 「何が起こっている?」

 後から参加した国王は状況が掴めていないようだ。

 「今、我が国の北方に位置する国、ウラレンシスがこちらに進軍してきたと、情報が入りました。生憎あいにく我が国とウラレンシスとの間に峠があり、多少時間がかかりますがあまり猶予はありません」

 「状況は分かった」

 国王は腕を組み考え込んだ。

 戦争や反乱が起こらなくなった今では、すっかり平和ボケしてしまった。

 「スノウウィー師団を招集しろ」

 「スノウウィー師団だけですか!? ウラレンシス軍は5万を越えているとの情報も入っています」

 「ああ、わしはそう言ったはずだが? それにあの師団だけでウラレンシスの兵に勝てる」

 勝算は十分にあると、言わんばかりに国王は胸を張った。

 「か、かしこまりました」

 側近はそう言って、部屋を飛び出し招集の準備に取りかかった。

 「本当にスノウウィー師団だけで大丈夫でしょうか?」

 不安を抑えきれず側近の一人は失礼と分かっていながらも率直な疑問をもらす。

 「問題ない。我が国の精鋭たちが集まった最強の師団だ。話は終わりだ。ひとまず解散」

 そう言って会議はお開きとなった。

 1時間後。

 宮殿の広場に集められた約1万人で編成されたスノウウィー師団。先頭にはシロフクロウのスノウウィー師団長。階級は大佐。

 白い体に鋭い目つき、羽毛も整っている。まるでクールという言葉をフクロウ化したような顔つき。

 スノウウィー師団長の部下である団員は綺麗に整列し見事な正方形をつくっている。

 正面の巨大な扉が開くと同時に一層緊張感が漂う。一斉にお辞儀をして国王が登場。

 「現在、ウラレンシス軍がこちらに進軍している。そのウラレンシス軍を撃破するために諸君を招集した。見事撃破した暁には十分な報酬があると思ってよい。君たちの健闘をを心から祈っている」

 それに呼応するように団員は一斉に野太い声で返事をした。

 有難い御声を受け取ったスノウウィー師団は一先ひとまず軍の司令部に戻り作戦会議を開く。

 

 1時間半で作戦会議は終了し、各自それぞれ防具の装備に取りかかっていた。

 作戦の内容は峠内でゲリラ戦を仕掛ける算段だ。

 スノウウィー師団は暗黒の峠の中で配置に付いた。後は敵軍が攻めてくるのを待つだけだ。

 1時間後。

 段々と風を切る音が近づいてくる。緊張感が漂うなか作戦は決行された。

 「うおおおおーーーー」

 威勢の良いかけ声とともにスノウウィー師団は敵軍に奇襲を仕掛ける。思わぬ形で攻撃を受けたウラレンシス軍の兵士たちは動揺を隠せない。敵軍の連携は崩れいく。

 さらに、残りの団員が追い討ちをかける。くちばしと足の爪を使った激しい攻防戦が始まった。

 スノウウィー師団は数は少ないが、作戦がうまく成功し勝利は目の前だった。しかし団員は疑問を隠せない。

 ウラレンシス軍の兵は5万と聞いていたが明らかに2万程度しかいない。団員はある事に気付いた。『おとり作戦』という言葉が頭に浮かぶ。

 しかし、気付くのが遅すぎた。

 2万の兵をおとりにして残りの3万の兵は回り道をしてストリックス本土に攻め込む作戦だったのだ。

 3万の兵は既に峠を下り始めていた。ウラレンシス軍のベイ大将は我の作戦は成功したと思い込み先陣を切って疾走する。

 しかしベイ大将の視界は突如、白い物体に遮られた。さらに激痛に襲われる。ベイ大将の体は白い羽毛に身を包んだスノウウィー大佐の爪で捕らえられていた。その後ろから団員がウラレンシス軍に奇襲を仕掛ける。

 「なにっ!? なぜストリックスの団員が此処ここにいる!?」

 「なぜって? 貴様の作戦を見抜いていたからさ。『おとり作戦』とか言う、原始的な作戦をこのオレが見抜けないはず無いだろう」

 「くそっ、こいつを倒せ!!」

 しかし、ベイ大将の声に誰も反応しない。

 既にウラレンシス軍はスノウウィー師団によって鎮圧されていた。

 結局、ストリックが勝利を収めた。

 後日、宮中ではベイ大将は処刑せずに本国に送還するという方針に決定。

 「これで良かったのですか? やはりウラレンシスと不可侵条約を結んだ方がよかったのでは?」

 ウラレンシスに何も制裁を加えないままこのいくさは終結した。この国王の意向に反対する側近もいたのだ。

 「構わん。相手にも我が国の力を見せつけることが出来た。特にスノウウィー師団のを」

 

 スノウウィーとその団員は英雄になり、この都市に再び平和が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

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フクロウ英雄伝説 藤ノ宮コウジ @EtouTakeaki

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