フクロウが人間に転生した話

浮島みゃー太郎

第1話チート能力とは?

突然だが、俺は高校二年生「星野 空」。

前世はフクロウだ。


もう一度言おう。「フクロウ」だ。

フクロウ目フクロウ科フクロウ属、皆さんご存知、あの「フクロウ」である。


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「あー何か楽しい事ないかなー」


梅雨も過ぎ夏めいてきたこの頃。暑いだけで楽しい事が何もない。「社畜の家に産まれ、学校に通い、時々神様からの仕事をこなす。」こんな普通の生活には飽きてしまった。


楽しいのは、年の離れた妹を迎えに行く時だけだ。・・・まぁ、俺はシスコンではないが。


これが人間の生活なら、昼夜逆転の生活を送った末、最後は鷹と刺し違えた前世のフクロウの方が楽しかった。


あの時の鷹も転生したのだろうか。


そんな下らない事を考えていると妹の幼稚園が見えてくる。


迎えのママさん達をかき分け、妹の先生に挨拶する。


「あら!いつもお疲れ様。

日菜ちゃーん!!お兄さん迎えにきたよー」


「はーい!!」


先生の呼ぶ声を聞き、妹の日菜乃が飛び出し━━勢いそのままに飛びついてきた。


「日菜乃、ただいまなのです!!」


「あーあーおかえり。ほら帰るぞー」


「ラジャー!!」


日菜はどこで覚えたのか、ビシッと敬礼した。


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「日菜ちゃん今日ねー『らぶれたぁ?』をね貰ったの!」


「そーかそれは良かった・・・は!?ラブレター!?」


「そう!それ!らぶれたぁ!」


日菜としっかり手を繋ぎ、とりとめもない話をするいつもの帰り道。


「日菜!どこのどいつだ!!誰から貰った!!」


「ん??よし子ちゃんだよ??」


「・・・ならお返事書かなきゃな。」


「うん!!」


危なかった。まだ幼い子供を一人転生させるところだった。ゴキブリとかに。


そんないつもの帰り道。


「それでは今日の晩御飯を発表します。」


交差点で信号に引っ掛かったタイミングで、俺は神妙な面持ちで伝える。


「どぅるどぅるどぅる・・・・・」


ドラムロールのつもりなのだろう。イタズラっぽく笑いながら日菜はノッてくれた。


兵器並みにかわいい。これなら世界から戦争も無くなるだろう。これが本当のチートだな。


「星野君!!えーっと・・・遅くなってごめーん・・・!!」


日菜が息を吸い込み最後を飾ろうとした瞬間、突然の乱入者が現れた。


乱入者はオドオドしながらしきりに目配せしてくる。


そんな事よりもこちらとしては涙目になっている日菜の方が重要なのだが・・・


「おやおや〜星野君ではありませんか〜」

「咲希さんと約束なんてしてたんですか〜」


ヒョロ長メガネとチビ筋肉の二人組が話しかけてきた。確か同じクラス。


そしてこの女の子は、

クラスメイトの湊川 咲希。


・・・あぁ、だいたい事情は分かった。


「あぁ、うん。約束してたわ。では。」


日菜の手を引き足早に去ろうとしたが、あちらさんはまだ用件が済んでいないらしい。


「待ってよー陰キャの星野君と咲希ちゃんが約束なんておかしいでしょー」

「騙されてるってw」


ゲラゲラ笑いながら俺達の進行方向を塞ぐ。


「かわいい妹ちゃんの手なんて引いちゃってー」

「ダッサーw」


なんだコイツら小学生か?


日菜はぎゅっと俺のズボンを掴み、湊川は俺の後ろに隠れたまま様子をうかがっている。


「ハァ・・・ちょっと妹よろしく。」


「え!?あの、うん?」


日菜を湊川に預け一歩前に出る。


「なんだよ・・・ケンカしたこともない陰キャが!!ケガするぞ!!」


チビ筋肉が思いっきり殴りかかってくる。


それをスッとかわす。俺のチート能力のひとつに『移動時の音が小さくなる』というものがある。・・・めっちゃ地味。


さらに言えば、『目』も全然違う。昼間は光が強すぎて本気は出せないが、それでもただの人間と比べ物にならない程良い。


こいつのパンチなんて止まって見える。


そしたらがら空きの━━━


ドガッ!!「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


フクロウ、人間共通の男の弱点に蹴りを入れた。これも本気で蹴ればチビ筋肉の性別を余裕で転換できる威力を出すことが可能だ。


チビ筋肉は断末魔を上げ、うずくまったまま動かなくなった。


「行こう。」


あたふたしているヒョロメガネを置き去りに、日菜と湊川の手を引いてその場を去る。

そのまま暫く歩くと、一匹の雀が俺の肩にとまった。


『大丈夫。さっきの二人はつけてきてないよ。』


「そうか。ありがとな。」


これも俺のチート能力。

『鳥と会話が出来る』すげぇー・・・。


なんか地味だな。全体的に・・・。


雀が飛び立つと同時に湊川の手を離す。


「じゃあここで。気を付けてかえれよ。」


「あ、うん、あの、ありがとう!」


湊川は手をチラッと見た後、笑顔でお礼を言った。


美的感覚がフクロウの俺でも分かる。

かわいい。めっちゃかわいい。


「ねぇねぇ、おねぇちゃん。」


日菜が湊川に声をかける。


「なーに?」


湊川は微笑みながら答える。


「一緒に夜ご飯食べよ!お兄ちゃんと二人はちょっと寂しいの・・・」


・・・日菜乃そんな風に思ってたのか。


「えーっと・・・」


湊川が困ったように俺を見る。どうやら俺の転生人生の価値を決めるのは早かったらしい。



とりあえず皆に伝えたいことは『人間の女はでっかいネズミを貰っても喜ばない』ということだ。

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フクロウが人間に転生した話 浮島みゃー太郎 @Mikoh

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