春霞
ウラカゼ
第1話
「冷えますね、もう桜が咲くような時分だっていうのに」
「あれは山桜だから早く咲くんですよ。とはいえ確かに、貴方の言う通りだ」
温泉の川から登る白い湯煙が、月光にチラチラと光る珊瑚色を薄く烟らせているのが老いた目に眩しい。象牙のような白地にうっすらと青い葉脈の走る肌とよろしく。
水のような、硫黄のような、炭のような、汗のような。様々なにおいがつめたい風で撹拌される。
「そうでしょう」
ぽそり、と過剰にモコモコと綿の詰められた褞袍が音を立て、温かい両手が私の手を包む。落ち葉の上に初雪が零れた様だ。
「貴方の手は温かい」
「ハハ、血の気が多いのですかな。貴方の手はひんやりとしていますね。」
「もうそこまで血が回らんのでしょう」
西洋人の血が入っているのか、はたまたあまりに黒くて青光りしているのか、螺鈿の瞬く黒目が私を見上げた。
「ですが、寝苦しい夜にはきっといいでしょうね」
彼のうっそりと微笑む唇は、霞む三日月を形作る
春霞 ウラカゼ @1121uaae
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