◆第三章/混ざり合う思考

*調和なき知覚

「あいつを助けたって意味ないよ」

 ジーンはハンドガンを仕舞うと溜息を吐き出す。

「正常に戻る兆しがないから、失敗作とみなされたんだよ?」

 何も言えずジーンから視線を外した。

「いくら父さんでも、精神障害についてはそれほど詳しくはないよね。僕だってそうだけど、チームの専門家が僕以外はみんな失敗だと言っていたんだ」

 どんなにあいつを助けたって、あいつは最終的に誰かを傷つけないと気が済まない。傷つける対象は誰だって構わない。だから、そんな世界にいる。

 そんな世界にしか、いられない──

「それを、父さんはどうやって抑え込むつもりなのさ」

 僕は、父さんの意志を尊重してる。だけど、あいつはおかまいなしに破壊してまわる。破壊衝動を抑えられないんだ。

 そもそも、フォージュリは衝動を抑えるつもりがない。

「わかっている」

「嘘だね」

 父さんはただ、施設の生き残りで自分のクローンだから助けたいと思ってるだけだ。

「いつまで偽善者を決め込んでるの」

 そんなつもりはないと言えば嘘になる。ジーンの言っている事も理解はしている。それでも、他の選択肢を見つけたい。

 ジーンを制止したのは、一般人のいる場所での戦闘を避けたいというのが一番の理由だ。

 しかし、ジーンにとってはフォージュリを黙らせる事が最優先で、住民への被害は問題としていないのだろう。

 ベリルの心中に、「ジーンは本当に成功だとされていたのか」という疑問が沸き立つ。

 どういったチェック項目を設けていたのか。ベリルの目から見れば、ジーンにもどこかしらの違和感があった。

 いや、ジーンのような人間は、多くはないが今までも見てきている。されど、出会ってきた誰よりもジーンに対する強い違和感は拭えない。

 普通に振る舞っているように見えて、意識だけでは補えない感情の欠落が見え隠れしている。

「まあいいや。父さんのしたいようにすればいいよ」

 肩をすくめてリビングに戻っていく。ふと、振り返り、

「お腹空いた。何か食べたい」

 子どものようにねだるジーンに呆れつつ、キッチンに向かった。フライパンを手にし、去り際のフォージュリの表情を思い起こす。

 あれは憎悪とは異なる──妬みにも似た目だった。

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