Special!特別短編

特別短編「決戦前夜」その1

 深瀬史織の一日は、眼鏡を探すところから始まる。


「んい……ねむ……」


 手探りが二回空振った後、掴んだ眼鏡をかけて携帯のアラームを朦朧としながら止める。

 六月、土曜日の朝。今日は朝早くから練習だ。

 あくびをしながら布団から身体を起こし、スマホを握ったままぐいっと身体を反らした。


「……またきつくなってる」


 寝るときは外しているから、気のせいじゃない。本当にやだ。もう中学の頃の体操着は無理かな。

 なんて寝ぼけながら考えていたら。


「っ! せ、先輩からっ!」


 携帯のラインの通知を見て、思わずしゅばっとベットから跳び上がってしまった。

 なに。なに。なに! デートのお誘いとか!?


「……ウェイト。落ち着くのよ、深瀬史織」


 なぜか洋画のヒロインみたいなかぶりを振る。テンションが変になっていた。


「ど、どうせ先輩だから、部活のことで何か教えてとかなんでしょ」


 このパターンは知ってる。悠先輩には詳しいのだ。

 もう期待なんてしない。そもそも今日は待望のインハイ個人予選の前日。そんな大事の前に、生意気な後輩に構う暇なんて――。




[Yu.M] 史織。今日、練習終わったあとヒマ?

[Yu.M] もし空いてたらどっか出かけようぜー




 深く深く、深呼吸する。それから眼鏡をおでこにずらして、何度も画面を確認。こくりと頷いた。


「きたっ! 見た!? 勝ったぁ――――っ!」


 クールビューティ(笑)、馬鹿なんじゃないの? そういうのは自称剣姫さんがやってればいいの。


「うれじいでずう……」


 今日は、好きな人と……人生初デート!




 × × ×




「切り返し! 始めぇ―――ッ!」

「ヤぁああ――――――っ!」


 お腹の底から声を出して、大きく振りかぶった竹刀を強い踏み込みと共に振り下ろす。「メぇんッ!」

 ばこん! と良い音が鳴った相手の面の中で、愛しの水上悠先輩がにやりと笑う。

 左に右に立てた彼の竹刀に向かって、右面左面と互い違いに鋭く斜めへの斬撃を繰り出して前進後退を繰り返す。「はァっ!」

 下がりの五本目、右面を打って三歩バックの残心。止まってすうっと大きく息を吸い込み、そして。


「メぇええ―――――――ん、やああッ!」


 最後に綺麗に大きく正面打ちを決めて抜けて、一つに纏めた髪を揺らして振り返った。


「よし……。上手くなったな、史織!」

「と、当然です! ……えへ、やった。もっとっ」


 小声で本音を漏らしまくる。掛け声だらけだから相手には聞こえないのだと最近学んだ。

 悠も、心底楽しそうに見える。剣道はもう嫌だと、自分を呪っていたあの人はもういない。じっと、今度は打つ側に回る彼を見つめる。……あれ。


「先輩、ストップです。竹刀、ささくれてません?」


 籠手を外して、悠の竹刀の剣先辺りを指差す。

 あっ、と彼も声を漏らした。「ほんとだ」


「す、すみませんっ! 私の打突が下手だから」

「いや、そんなことないよ。元々使い込んでたんだ。替えてくるな」


 素早く用具庫に駆けていって、新しい竹刀に鍔と鍔止めを付け替えて颯爽と彼は戻ってくる。

 早い。気勢十分、やる気満々だ。


「よし、行くぞ史織!」

「……はい!」


 ああ、格好良いなあ。

 これが私の、自慢の先輩だ。




 × × ×




「では、明日は寝坊しないように。それから忘れ物にも気をつけましょうね。平常心を意識する……というのも、既に平常ではないですが。自信を持って、普段の稽古の成果を発揮してきてください。

 以上です。それでは、解散!」


 佐々木先生の号令に、ありがとうございましたとみんなで座礼し声を張る。

 今日の練習はいつもより早く始まり、いつもより軽い内容で早く終わった。明日の朝早い試合時間でも身体が動くように、試合の前日はこうするのが良いのだという。勉強になる。

 でも、今はそれよりもっと大事なことがある。

 史織は史上最高速で防具をパージし、もはや押しつける勢いで防具棚に面垂れ胴籠手をぶち込む。がちゃがちゃと音を立てながら、素早く礼をして道場を出た。何事かという目線は知らない。

 すぐにトイレの洗面所に走り、蛇口を捻った。


「洗わなきゃ。私、汚れてる……ッ!」


 呪われし籠手の匂いは、JKにとって致命傷。

 もしも? もしもの話だが? 今日、手を繋ぐイベントが発生するかもしれないし。死と税務署とラブなイベントはある日突然やってくると言うし。


「くっ……。落ちない。落ちない……っ!」


 石鹸でごしごしして手の匂いをかぐも、完全に消えない。一体どうなっているんだ、剣道の防具臭は。


「しおりん、何してんねん……」

「あんた人殺した後みたいになってるわよ」


 そうしていると、明日個人戦に出場する千紘と纏が胴着姿のまま歩いて追いかけてきた。派手髪を括ったヘアゴムを鬱陶しげに取りつつ、纏は怪訝な顔をしながら尋ねてくる。


「何でそんなに必死なのよ? 今日に限って」

「なんか慌ててるでなー?」

「そっ、そそそそんなことないですよ!? ほら余裕です! ハッピバースデートゥーユ~♪」

「余計サイコ感出てるわよその洗い方……」

「汗臭いのがイヤなん? 一応シャワーあるで?」

「えっ!? それ入部したときに言って下さいよっ!」


 叫んで文句を言うと、千紘はトレードマークのヘアピンを前髪に着けながらふるふると首を横に振る。


「ちゃうねん。水しか出ぇへんねん……」

「ちょっと会長!? どうにかしてくださいよっ!」

「無理よ、ボロい公立なんだから。諦めなさい」


 ぐぬっと唇を噛む。しかし入れないことはないらしい。どうして部室に円香のシャンプー一式があるのかと思ったら、そういうことだったのか。


「ぬぅうう……背に腹ぁ!」


 洗面所を出て、道場に戻る。果たしてお目当ての円香はいた。葉月と一緒に悠とお話しているが、構わず胴着の袖をくいくい引っ張った。


「あっ、あの! 円香先輩! 部室のシャンプーとか諸々貸してくださいっ!」

「えっ? シャワるのー? あれ水しか出ないよ?」

「構わぬっ! 冷たい目線よりマシです!」

「……何。そんなに、必死?」


 無機質で黒々とした葉月の瞳が、追及するようにこちらを見てくる。安息を求めるように視線を円香の豊かな胸に逸らした。


「な、なんでもないですよ? もう六月ですし? 汗流したい的な?」


 そう言うと、女同士の会話を静観していた悠が、にこっと微笑んでついに口を開いた。


「じゃあ俺、防具とか詰めてるな。ゆっくりでいいから、先にシャワー浴びてこいよ」

「ちょっ……先輩っ!?」


 まさに水を打ったかのように、場が静まりかえる。他意はないと分かっているのに言葉のチョイスがまずすぎる。真っ赤になっていると、円香がやがて片側に寄せた髪を撫でながら、黒く笑った。


「なーんか……あやしいねえ?」


 悠が防具を片付けに行ったから、剣道部最凶の追及の矛先が自分に向く。まずい。

 こういうときは、手はひとつ。


「お疲れ様でした。さよならー!」「あーっ!?」


 強敵は避ける。全回復して、いざデート!




 × × ×




「おいしいですねえ……。このパスタ!」

「お、そうか? それは良かった」


 サイゼ以外でちゃんとしたイタリアンを食べにくるなんて初めて。しかも男の先輩と。

 史織はうっとりしながら、カルボナーラをくるくるフォークで巻いてぱくっと食べる。

 場所は藤宮高校から三十分ほど電車に乗った、県で一番栄えている駅のレストランだ。本当は都内まで出ても良かったのだが、悠が防具袋と竹刀袋を持っているのでさすがにそれは遠慮した。

 学校の帰りにどこかに行くのは、おしゃれとかが出来なくてちょっぴり残念ではあるけれど、これはいわゆる制服デートというやつで。乾吹雪だってしていなかった、自分だけの特権というやつで。


「んふふー♪」

「ご機嫌だなあ。そんなに美味いか?」

「そりゃあもう。人のお金で食べるパスタですよ!」

「はは、まあ埋め合わせだからな。好きなだけ食うがよいわ」

「御意です!」


 さすがに遠慮するので払いますよとは言ったものの、どうやら株主優待券とやらを持っているらしく。今日はタダでご飯を食べられることになったのだ。


「でも、こんなお店よく知ってましたね。……誰に教えてもらったんですか?」


 もしかして、女か。よその。

 むっと、ミートスパゲティをくるくる巻いている悠を睨むと、首を傾げて微笑むだけだった。


「……かーさんに教えてもらったんだよ。リーズナブルで空いてるし、接待に向いてるぞって」

「あっ、そうだったんですね。……あれ、接待?」

「何も間違ってないな?」

「それを私に言うのってどうなんですかね!」


 全く、もてなしの心が足りない。ぷんすかしていると、なんとすぐにこっちの分は食べ終わってしまった。レディースサイズを頼んだからだ。


「……うっ」


 緊急事態発生。ぜんぜん足りない。最近色々成長しているからか、どんどこ食べたくなってしまう。

 見栄を張らずに普通サイズを頼めば良かったけれど、でかくて大食いの女とか絶対思われたくないし。ああでも、この先お腹鳴っちゃったらどうしよう。 何か追加で頼む? でもそれ更に大食いっぽい!

 そんな風に空っぽになったお皿を泣きそうになりながら見つめていると、向かいの席で頬杖を突きながら悠が微笑んで言った。


「なあ史織。俺、微妙に足りなさそうだから、ピザでも頼んで分けないか?」

「……えっ? 大盛りだったのに?」

「育ち盛りなんだよ。もう食べられないか?」

「……まったく。しょうがないですねえ! あのっ、私マルゲリータがいいです!」

「はいはい。じゃあ呼ぶか。すみませーん」


 助かった。いきいきしながらメニューを指差すと、悠が通りすがった店員さんに向かって手を挙げる。するといきなり、悠の眼が、道場にいるときみたいに鋭くつり上がった。


「せ、先輩? どうしました?」

「……いや。なんでもないよ」


 店員さんが来るまで、また頬杖を突いて。


「やられたな。……どうにかして葬るか」


 何やらぼそっと、悠はそんなことを言った。




 × × ×




「なあはーちゃん。今ゆーくん、こっち見ぃひんかった?」

「……気のせい。多分」

「そうよ、十分距離取ってるんだし! いかにあいつが達人とはいえ、漫画じゃねーのよ?」

「でも、水上くんなら気付きそうだけどねー」


 纏の慢心を諫めつつ、けらけら笑って円香はボロネーゼをうっとり頂く。相変わらずのおいしさだ。

 悠にどこかいいご飯屋さんないですかと聞かれて、自信を持っておすすめしただけはあるのだ。


「えっへっへ。やっぱりデートだったとはねえ」

「試合前日に随分余裕じゃねーのよ。許せないわ」

「まといさんも明日試合やろ……」

「千紘も」

「そうだよー。嫌なら葉月だけで良かったんだよ?」

「冷たいこと言わんといてやユキさん!? うちもよしてくださいよ! ……なんか、おもろそうやし」


 だよねえ、と乙女四人でえへっと頬を緩ませる。

 女の子は恋のお話が大好き。特にあの部内のマスコットふたりのデートとなれば、そりゃあ見たい。

 でも、問題がひとつ。円香は腕を組んで考える。


「もし、見つかっちゃったらどうしようね?」

「問題ないわよ。あたしらは『偶然』ここにいたの。猿にタイプライターを打たせれば『偶然』シェイクスピアを書き上げることだってあるわよ!」

「詭弁」

「ユキさん、まといさんは何言うてんの?」

「うん。頭のいい馬鹿はほっとこっか」

「ん? なんかよー分からんけど、分かった!」


 あほかわいい。円香は千紘をなでなでした後、すぐ動けるように今のうちに割り勘をしておくことにした。伝票を手に取る。


「わたし、細かいのないからまとめて払っていい?」

「ええですよー。しかし、結構ええ値段するなあ」

「でも、値段相応。良い」

「円香、なんか割引クーポンとか持ってないわけ? 株主優待的なタダ券とか」

「あるわけないじゃん。ここ、チェーンじゃないんだよ? あってもたまーにサラダ無料とかかなあ」


 わいわいと、しばしくっちゃべる。しばらくするとふたりが食べ終わり、レジに向かっていった。

 史織だけを、先に外に出して。


「奢ったのかな? ……ふふ、男の子だねえ」


 しかし、デートは始まったばかり。

 評点を付けるのは、これからこれから。




 × × ×




 ご飯を食べた後、史織たちは近くの複合施設まで歩いて服屋さんに入る。お気に入りのブランドが入っていたから寄ってもらったのだった。

 それにしてもお店が大きい。鬼ごっこでもできるんじゃなかろうか。史織はそんなことを思いながら店内をうろついて、トップスを何個か手に取る。

 ダークめな色合いで、首元が開いているものが太って見えなくていいかな。最近胸大きくなってきたし。でも薄い色合いも好きなんだよなあ。

 そうして真剣に吟味し、やがて二着に収束した。


「先輩先輩。これとこれ、どっちが似合います?」

「予想通り試練を投げかけてきやがったな……」

「嫌そうな顔禁止。男を見せてくださいよ!」


 ああこのシチュエーション夢だった。しあわせ。

 ところで、本当はどっちでもいい。決めてくれた方を買おうかなと思っている。

 せっかくだから、先輩の好みになりたい。


「んー。決められないなあ。どっちもいいし」

「……最悪。優柔不断ですね」


 先程の思想は取り消します。やっぱり選んだ方と逆を選ぶ。人が右なら私は左。

 つーんとそっぽを向いていると、悠は手に持っていた竹刀袋を身体に倒して置いて、照れくさそうに頬の傷を掻いた。


「つってもなあ。元がいいから、何でも似合うんだよな。史織は背ぇ高いし、モデルさんみたいだから」

「……っ。そ、そうですか?」

「まあでも、俺はこっち派。薄めの色合いだから、赤い眼鏡が際立っていいと思う。史織らしさが出て」


 なにこれ。まじで照れる。ていうかどうしてこの人はすらすらと褒めることができるの。

 もしかして遊び慣れているのだろうかとじとっと睨むと、悠は苦笑しはじめた。


「やっぱり逆のが良かったか。悪い、センスなくて」

「あっ、いや! そういう訳じゃなくて!」

「いいんだよ。他人の意見は聞いてもいいけど、鵜呑みは良くないからな。納得してないまま買ったりやったりしたことには、後悔が残るぞ」


 やけに説得力があるな、と感じる。一体なぜかと答えに辿り着く前に、悠はとどめを刺してきた。


「自分が好きなものを通すのが、一番史織らしくていいんじゃないか。その黒っぽい方にしたら?」

「……はい。なので、先輩が選んだ薄い方にします」

「あまのじゃく眼鏡……。また逆張りか」

「えへ。これが私らしさなので。試着しまーす♪」


 手を挙げて近くの店員さんを召喚する。するとまた悠が殺気を帯びた顔をする。何だ、何事?


「ごめん。着替えてる間、トイレ行ってくる。荷物見といて」

「……意見聞きたいので、早くですよ」


 尿意かい。

 ずっこけそうになりながら分かれて、店員さんに着いていく。あちこちに試着室がたくさんあった。


「ふふ。聞いてましたよ。彼氏さんですか?」

「へあっ!? いやっ、ちが、違いますよっ!」

 店員のお姉さんの言葉に、顔を真っ赤にする。誰も見ていないのに。「……で、でも」


 でも、誰も見ていないから。


「そうだったらいいのになって、思います……」


 こういう惚気は、ちょっとくらい許してほしい。




 × × ×




「あれ? ゆーくんおらんなった。トイレかな」


 監視役を仰せつかっていた千紘は、史織が試着室に入ったのを見届けて、防具一式を持ちながら広大な店内を見回して歩く。悠はどこいった。

 他のみんなはイイ感じのスカート品評会に夢中なので抜けてきた。制服以外でスカートなんか一着も持っていない。動きづらいし。


「やっぱり素早く動くんが一番やで、な……ん?」


 とんとん、と肩を叩かれる。

 振り返ると、怖いぐらい満面の笑みの悠がいた。


「あっ!? ゆー」


 くん、という間もなく、悠の左手が千紘の口を塞ぎ、右手は竹刀袋を持っていない方の手を恋人繋ぎで捕まえてくる。防具袋の重み、それから悠の力で逆らえない。

 ぐいっと近くの試着室に引っ張り込まれ、カーテンを閉められた。鏡に、後ろから抱きしめられるような形で口を塞がれた、暗殺直前の自分が映った。


「騒ぐなよ。もし騒いだら俺も騒ぐ。ちっひは更衣室でいちゃつくカップルとして店員に掴まって、藤高で噂されることになるだろうな」

「んー! んーっ!」

「……うるさいな。返事は『はい』か『YES』だ」


 低い声で耳元で囁かれる。背筋がぞくっとした。


「返事は?」

「ん、ん……っ」

「じゃ、はーちゃんと連絡取ろうか。ふたりきりで話したいから途中で抜けようって言って?」

「えっ!? そんな! うちまだなんも!」


 塞がれた手が離れた瞬間声をあげる。悠は両腕を組み、しょうがないなと苦笑していた。


「『はい』か『YES』かって言ってんのに。脅し方間違えたかな。そんなに俺とカップルになりたい?」

「あほ! 全然ちゃうわ! 変なこと言うな!」

「小声。……じゃあ今すぐ連絡しなかったら、俺、明日からちっひのこと『二宮さん』って呼ぶな」

「……えっ」

「地稽古も全部手ぇ抜くからな。ちっひの打ちたいように打たせてやることにしよう」



[千紘] はーちゃん、一緒に途中で抜けへん?

[千紘] 大事な試合前やからゆっくり話したいー

[葉月] ええで



「ごめんやってばぁ……」


 携帯の画面を示して、ちょっと泣きそうになりながら悠を見上げる。よろしいと頷いていた。


「これで二匹。あんまりからかってやんなよな」

「……ん。ごめん。なんか、おもろそうやってん」

「はは、まあ史織だから気持ちは分かるけどな。でもちっひは、他人に構ってる余裕ないだろ」


 ぱちんとデコピンをされて、痛みにおでこを押さえる。顔を上げると、悠がにやりと笑っていた。


「明日、頑張れよ。俺はちっひ推しだからな」

「えっ、吹雪ちゃんとちゃうのん?」

「なんで? そりゃ吹雪はいい子だけど、毎日一緒に稽古したのはちっひじゃん」


 俺は身内びいきだから、とカーテンを開いて辺りの様子を見ながら悠は言う。


「じゃ、俺は行くから。タイミングずらして出ろよ」

「うん。……ゆーくん」

「ん?」

「明日、頑張りや。うち、応援してるで」

「おう。表彰台で待ってるわ」


 まるでデートの待ち合わせ場所でも示すようにそう言って、悠は試着室から出て行く。


「……よっしゃ。うちも明日、構ってもらお」


 とりあえず今日は、ここで退散。

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